あの戦争とは何だったか?(1)

「天国への道を知る最良の方法は地獄への道を探究することである、とマキャベリストは言ったが、日本人はそのことをしてこなかった。この本はそれを教えてくれる」。帯の塩野七生さんの言葉に惹かれて、新潮新書『あの戦争は何だったのか』を買ってきました。著者は、保阪正康さん、1939年生れ、『昭和史講座』を主宰するノンフィクシヨン作家です。
 敗戦後60年、もう一度、あの太平洋戦争の原因は何か?そして戦争の再発防止には何が必要か?を考えてみようと、思ったのです。
 著者のあとがき、【太平洋戦争を正邪でみるのでなく、この戦争のプロセスにひそんでいるこの国の体質を問い、私たちの社会観、人生観の不透明な部分に切り込んでみようというのが本書を著した理由である。あの戦争のなかに、私たちの国に欠けているものが何かがそのまま凝縮されている。・・・その何かは戦争と言うプロジェクトだけでなく、戦後社会にあっても見られるだけでなく、今なお現実の姿として指摘できるのではないか。
 戦後の内閣も、たとえあの戦争に批判的であったとしても、当時の資料を用いながら最低限戦争の内実を国民に説明する義務があるように、私には思える。】
 全く同感です。

 読んで面白いと思ったことの列記から始めましょう。 
1.「軍部」とは
【戦後教育は、太平洋戦争を一言で「日本の軍部、軍国主義がアジヤ各地を侵略した行為と片付ける。では、軍部とはいったい誰のことだったのか。・・・
「軍部」というのは、参謀本部、軍令部などの作戦部、あるいは陸軍省海軍省の軍務局など、軍の政策や戦略を司る中枢部のことを言う。「軍国主義」とは、そうした中枢部が発する命令、彼らの時代認識からくる戦略といったものである。】
【(陸軍では)陸大卒業時の成績上位者(1割)が「恩賜の軍刀組」と呼ばれ、参謀本部の作戦部など軍中枢部に入る特権を得た。】同様に海軍では、海軍大学卒業のエリートが軍の中枢部に入る特権を得ている。
【念を押しておきたいのは、「参謀本部」(陸軍)・軍令部(海軍)と陸軍省海軍省とは全く別の組織だということである。前者は(悪名高い)「統帥権」を付与された組織であり(つまり天皇直属)、後者は統治権(内閣に属する)の内にある組織であった。】
2.「皇道派」と「統制派」
 「皇道派」とは、「天皇親政」を望む軍人であり、「統制派」とは、日本の喫緊の問題は国家総力戦に見合う高度国防体制を作り上げることであり、それには合法的に軍部が権力を手に入れ国家総動員体制、”統制経済体制”にしなければならぬ(いわば軍人社会主義である)、という考えの軍人である。
 「皇道派」が、2.26事件を起こした。この後、首相になった広田広毅は「軍部大臣現役制」を復活させた。そして、誰もが軍部を止められなくなった。
【まずは軍部が先陣を切って戦争と言う既成事実をつくりあげ、さてそれから戦争目的があたふたと考えられ、国民にはとにかく戦争に協力しろ、勝たなければこの国は滅ぼされると強権的に押えつける。】(続く)