ゲノム解読以後に分かったこと

 金子勝児玉龍彦著『逆システム学』(岩波新書)を読んで見ました。興味深い
話がいくつかありましたが、先ず、ゲノム解読後の話題について紹介します。

【 西暦2000年、当時の米国クリントン大統領と英国のブレア首相は、記者会
見で、ヒトゲノムの基本的解読宣言した。】
DNAが生物の身体のたんぱく質の設計図になっているということは、良く知られている。しかし、実際に、たんぱく質を指定しているDNAは、ゲノムの解読で分かったのだが、全体の2%に過ぎない。残りの98%は何をしているのか?どうも、たんぱく質を何時いかなるタイミングで生成するかの制御をやっているらしい。
 この本の著者達は、この点に着目し、“生命”の本質は、この調節制御にあるのではないか?と考えた。
【ゲノム解読以後、生物学の状況は大きく変化した。皮肉なことに、遺伝子配列を解明するゲノム解読によって、それまで得られなかったデータを大量に認識できるようになり、かえって遺伝子決定論という従来のアプローチには「欠陥」があることが見えてきた。大腸菌のゲノムではほとんどが(体の)要素である蛋白の配列であったのに、人間のDNA配列のうち、98%は調節制御・・・ネズミと人間とでは要素の数はあまりかわりなく、(つまり)調節制御が変わることが、進化の中心になっている・・・(だから)個別の遺伝子が解明されたからといって(要素だけ分かっても)、システム全体が分かるということにはならない】
 
半導体作成の技術の中で、光を基盤にあて、こまかな化学反応をおこさせる技術がある。これを用いて、半導体の基盤の上で、RNAがどれだけ作られたかを簡単に測定できる方法が開発された。これが、DNAチップである。】
【ヒトゲノムには約3万個の遺伝子があるが、ある刺激を与えた場合、時間とともに沢山の遺伝子が活性化される。米国のアイゼンは、沢山の刺激でのRNAの変動をまとめて、時間的、空間的に一緒に活性化される「クラスター」という概念をだした。
・・実は、このクラスターという概念は調節制御の解明に非常に大きな力になる。】
【DNAが生命の設計図だとすると、RNAは生命の注文書である。・・・細胞で設計図全体のゲノムをみるのも大変だし、製品にあたる蛋白全体をチェックするのもとても難しい。しかし、RNA全体を観察するのは比較的簡単である。】
 ある刺激を与えた場合の、RNAの出来方を調べることで、遺伝子の機能を推察できる。この考え(遺伝子のクラスターの変動から、制御のしくみを考える方法)を発展させて「逆システム学」を、著者たちは提起する。【システム全体はわからない段階でも、部分的に理解できている制度や制御のしくみをもとに、ある政策や治療の含み得る問題点を予測しようとする試みが逆システム学なのである。】
(「逆システム学」の”逆”は、リバース・エンジニヤリング(ある製品を部品に
まで分解し、製品の作り方を解明する技術)のリバースに由来する。)
> 【今、我々に必要なのは、逆システム生物学だと思うんですね。・・・群盲象をなでるということわざのように、多数のデータからシステムを想像する。(土居洋史博士)】(続く)