「逆システム学」が教えること

生物学における知見は、経済学にも大きな示唆となると、金子先生は言う。
 経済学における「市場」も、ある種の生命体と考えることが出来るのではないか。
【資本主義的な市場経済は、富める者をますます富まし、貧しい者をますます貧しくする傾向を持っている。このような所得分配の悪化は、社会の治安を悪化させる一方で、消費を減少させて不況を深刻化させてしまう。(そこで)税制や所得補助などさまざまな所得再分配制度が形成されてくる。・・・市場は社会全体に広がれば広がるほど、調節制御のしくみを進化させ複雑化していくのである。
 この調節制御のしくみの軸になっているのがセーフテイネットである。・・・これまでの経済学では、セーフテイネットは市場モデルの外側にあって、やむを得ず市場から脱落した弱者を救う例外的な制度とされてきた。だが、・・・セーフテイネットは決して市場の外部にあるのではない。むしろセーフテイネットがないと、調節制御系がこわれて市場経済は機能が麻痺してしまうのだ。】
 実は、金子先生の本を読んでみようと思ったのは、先生が年金制度について、しばしば提言され、「セーフテイネットの政治経済学」なる書も著されている。何故、年金に関心をもたれているか?を知りたかった。先生は「セーフテイネット」が市場(自由主義経済)の進化を体現するものと考えたのだ。
 生物の進化を探求する「逆システム学」は、【歴史性をもった対象を扱う自然科学と社会科学の方法上の融合という、何度も試みられては失敗してきた問題に対して、一つの新たな解答】と述べている。
 別の見方をすれば、『クラスターなる変化の集合』から変化を生ずるシステムの機能を推測するとは、現場の変化を良く観察し、真因を探ると言う『現場主義』と相通ずるものがあます。

 経営者や管理者は必ず何らかの理論をもって、現場に指示を出します。しかし、その理論は実験で確認したものではありません。間違った理論かもしれない。そこで、大野耐一さんは「現場を見ろ」と教えました。現場で起きていることは、理屈が合わないように見えても理屈どおりに起きている。理屈が合わなく思えるのは自分の理屈が間違っている。だから現場を見ることで、自分の理論を検証できる。「見る」というより「看る」。患者に注射をしたら、その注射が効果があったか看る。効果がない場合、患者が間違っているのでなく、注射が間違っている。
(以前、景気対策が効果を現さないことを聞かれた宮沢蔵相は「民間がもう少し元気をださなくては」と答えました。患者が間違っているという類の論だと思います。)
 トヨタは、大野さんの【現場主義】が残っている限り、当分は大丈夫でしょう。

 この「看る」はまさに、「逆システム学」の考えではないでしょうか。

追伸:文章は分かりやすく書くことを信条としているのですが、前便と併せて、分
か> り易く書くのが難しく、2〜3度書き直しましても、この程度でした。内容が専門
的で、この本の解説は私の手に余るようです。興味をもたれましたら原本に当たって
ください。