昭和天皇と酒 

 話題を変えましょう。昭和天皇の話。
昭和天皇はお酒を飲んだのですか」と尋ねた時の話です。

 【昭和天皇は酒を一滴も飲まないのは、元老達が一朝事あったときに、明確な決断が出来なくなることを怖れて飲まさなかったためと言われているそうだが、そのために酒を飲むと「気がふれる」と幼少のころから教えていたという。
 天皇が青年期にさしかかるころ(大正期)、東宮御所のある侍従が食事の時に酒を飲んで、酩酊状態になった。正体もなく侍従詰所で眠ってしまった。そこに昭和天皇がたまたま姿をあらわしたというが、「お酒を飲むと気がふれる」というのはこういうことか、とまじまじ見つめていたそうだ。昭和天皇は、「酒に酔う」ということが終世理解できなかったのではないか、と岡部は言った。】
 岡部とは、岡部長章氏、元昭和天皇侍従で最後の岸和田藩主岡部長職の八男です。

【侍医が、皇太子(現天皇)が誕生になった昭和8年の折に酩酊し、侍医部屋で鼾をかいて寝てしまった。そこに昭和天皇が現れ、「これは病気ではないか」と首を捻ったという。】

 以上は、保阪正康著『昭和史 忘れ得ぬ証言者たち』(講談社文庫)にあるエピソード
です。
 筆者の保坂さんは、別に、天皇が下戸であったかどうかを聞きたかったのではなく、『日本の敗戦は、実はもっと早めるべきでなかったか』を、終戦の関係者から取材していた時の余話ですが、その問いに関しては、『侍従はそのような政治的な考えはもたないようにしていなければならない』というのが岡部さんの答でした。

 この本はなかなかの良書です。昭和史研究かの保坂さんが、30年余にわたって直接面談して取材した人々数千人の中から64名を選んで、その印象を述べた本です。
 犬養道子、東条カツ、瀬島龍三、実松譲(大本営参謀)、秩父宮妃殿下、三木睦子佐藤千夜子(東京行進曲歌手)、槙枝元文、新関欽哉(大戦時外交官)、細川護貞(近衛首相秘書)、武谷三男(物理学者)等々錚々たる人物にインタヴューしている。

 『昭和という時代は何であったか』を、それぞれの分野で歴史の動きに立ち会った人々の
証言を記録して後世に伝える、保阪さんは良い仕事をされた、と感服しています。

 同書から、是非、紹介したい内容がいくつかありましたが、次の機会に・・・