竹内浩三について

 竹内浩三という詩人をご存知でしょうか。
今、『ぼくもいくさに 往くのだけれど』(稲泉 連著 中央公論新社)という本を読んでいます。
 竹内浩三は無名の一兵士として、23歳の若さでフィリピンで戦死。遺族に残された遺稿が戦後発見され、その詩才に注目が集まりました。
とかくの議論より彼の詩を紹介しましょう。
『骨のうたふ』と題する詩です。

【戦死やあはれ
兵隊の死ぬるやあはれ
とほい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こひびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や
(中略)
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰ってはきましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女の身だしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらひ
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になった

ああ 戦死やあはれ
故国の風は 骨を吹き飛ばした
故国は発展に忙しかった
女は化粧に忙しかった
骨は なんにもなしになった】
1945年に死去した竹内ですが、戦後の日本の世相を見ていたみたいでないですか!
 注 文中の「い」は、旧かなの猪なんですが、字が見つかりませんでした。
竹内について知りたい方は
http://www.h4.dion.ne.jp/~msetuko/tkozo/takeutisakuhin.html