下山事件と指揮権発動

 「下山事件 最後の証言」(柴田哲孝著、祥伝社、¥2100)という本を読みました。
 筆者は、’57年生まれ、日本推理作家協会会員で、この書は、戦中戦後、特務機関員をしていた祖父の足跡を追って下山事件の真相に行き着いたものだそうです。
 
 下山事件とは、ご承知と思いますが、昭和24年7月5日、初代国鉄総裁の下山氏が失踪し、深夜、常磐線の北千住・綾瀬間で轢死体として発見された事件です。
 捜査本部では、一課が自殺、二課と地検が他殺説。法医学界では、解剖した東大医学部が「死後轢断」、つまり他殺説。中舘慶大医学部教授と元名大医学部の小宮教授が「生体轢断」、自殺説を唱えたが、捜査本部は、事件後一ヶ月、何故か自殺と判定、半年後報告書(下山白書)を発表し、幕引きとしました。
 謎の多い事件で、今に至るまで「真相」と称するレポートが数多く発表され、最も有名なのは、松本清張の「日本の黒い霧」、GHQ(占領軍司令部)の陰謀説です。
 本書が類書と異なる点は、筆者の祖父が、この事件の背後で活動したと噂される亜細亜産業社の幹部であって、祖父や叔母などの近親者の証言を基にして記述している
ことです。
 私が、この事件について、最大の疑問と考えているのは、
1.何故、下山総裁は殺されたのか?(私は自殺説を取りません)
2.何故、捜査本部は真相を追究しようとせず、幕引きを図ったのか?
 の二点です。
 この二点について、面白い説を提示していました。
 結論だけ書きましょう。
 国鉄は、当時、談合と利権の巣窟だったそうです(昨今の日本道路公団みたい)。
それに、当時裏面で国鉄民営化の運動があった。民営化は、別の面から言うと、国の資産の払い下げを意味し、それには、利権が絡む。利権には当然政治家が絡んできます。
 疑問の第一点、下村さんは、政財界有力者の汚職を握っていたのではないか?それを表向きにしようとして殺されたのでは?というのです。
 第二点、「造船疑獄での指揮権発動」をご存知でしょう。昭和29年だったかな?時の与党幹事長・佐藤栄作氏に捜査の手が伸びようとした時、犬飼法相は指揮権を発動して捜査を止めました。時の首相は吉田茂氏です。
 この下山事件の時も、首相は吉田茂、幹事長は佐藤栄作でした。「下山事件」は公式の指揮権発動に先んじた指揮権発動だった?いや、この時の経験があって、造船疑獄の指揮権発動を躊躇わなかった?
 関連して、もう一つの指摘がありました。鉄道は、車のあまり普及していない時代にあっては、兵力運搬の軍事施設であった。そして、朝鮮半島に戦争が起きたのは翌年でした。昭和20年代の民営化は実現しなかったのです。 

下山事件に興味のある方にはお勧めの本です。