ZEN入門

「ビジネスZEN入門」(松山大耕著、講談社α新書)
大学図書館の棚でみつけました。筆者は妙心寺退蔵院副住職、1978年生まれ。2014年、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)出席。
 禅に影響を受けた外国人というと、真っ先に思い浮かべるのは、おそらくアップルの創業者・スチーブ・ジョブスでしょう。彼は10代の時インドで仏教に出会い、大学時代に禅に接し、当時カリフォルニヤで活動していた曹洞宗の乙川老師のもとに通って禅を学ぶ。結婚式モ音川師に執り行ってもらった。禅の影響はデザインの中にはっきりと息づいている世界的プロダクトデザイナーヂーター・ラムスも禅に魅せられた。
この二人のクリエイターのように外国人が禅に魅せられ強い影響を受ける例は少なくない。それは何故か・
第一には禅の考え方が普遍的であること。余計なものを無くし、その本質に向き合おうとする禅の在り方は文化を問わず多くの人の納得するところでしょう。
第2章 外国人ニ「禅」は分るか では、『禅』を外国人ニ紹介した鈴木大拙らと、日本ニ来テ『禅』ヲ学び、自国で「禅」をひろめた外国人ヲ紹介し、それを可能にする「禅」ノ普遍性について説明しています。インドのカレーと日本ノカレートいう例えが面白い。
 インドでは、カレイといえばスパイスの効いた辛いものが一般的、一方、日本のカレイは甘くてまろやかです。大学時代一つの実験をした。二つの部屋を用意しました。一つ目の部屋はすごく暑くて湿度も高い。日本の夏です。もう一つの部屋は凄く暑いけれど湿度のない部屋。つまり、インドのような環境です。そこに世界各国の留学生も含めた30人の学生にしばらくいてもらって、その中でインドと日本のカレイを食べもらう。すると、日本の部屋で食べた時30人20人以上が、日本のカレイの方がおいしいという。別の日にインドの部屋に入ってカレイを食べ比べる。インドのカレイの方がおいしいと言った学生が20人以上だった。食というのは、その土地の気候や風土に大きく左右される。宗教も同じだと筆者は言います。
 第3章「禅はグロ−バルに通じる」で、2011年始まった「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」を紹介している。若くて無名の絵師に寺に住み込んでもらって襖絵を書いてもらうプロジェクトです。
 退蔵院の国の重要文化財に指定されている方丈は約400年前に建造された。一時、宮本武蔵が逗留したことでも知られる。方丈内部の襖には狩野了慶が描いた山水画があり、桃山後期の傑作と言われる。しかし、描かれてから既に400年、損傷が激しく本像を囲む中心部以外はすべて外さざるを得ない。新たな襖を入れようという話が持ち上がり、このプロジェクトが始まった。今の京都の繁栄は、何百年も前の人達が京都に無数の素晴らしい芸術作品や文化財を残してくれたからです。決して現代の京都に生きる私たちの功績ではない。私たちもご先祖様のように後世のために、いまこの時代の新たな芸術作品を作らねばならない。妙心寺の見どころの一つ、「雲竜図」を描いたのは狩野探幽です。約350年前、彼は妙心寺塔頭である海福院に住み込みこの大作を書き上げました。そのようにして何百年と生き残る作品が生まれ、絵師自身も書き手として成長した。
私はこのシステムを現代に復活させたいと考えた。絵師にはお寺が給料を払って住み込んでもらう。そして寺での生活や禅の修行も実際にしてもらいながら、退蔵院にふさわしい襖絵を描いてもらう。依頼するのは、力があるけれどまだ無名の描き手がいい
 最高の襖を仕上げることを目指しながら、描き手自身が考え、悩み、成長できる場を提供する。それが今お寺としてやるべきことと考えたのです。当時、24歳で大学院を出たばかりの村林由貴さんが選ばれました。2011年から彼女はお寺に住みながら退蔵院本堂の72面の襖絵に取り組んでいます。このプロジェクトは現在も進行中ですが、始まった時から多くのメデイヤ、特に海外のメデイヤが注目してくれました。