憲法9条の裏話

 今回は憲法9条の話題。
 憲法の改定が話題(特に9条)になっていますが、先日紹介しました「昭和史 忘れ得ぬ証言者たち」に、筆者保阪さんと山田久俊氏(山田久就元駐ソ大使のご子息)との対談が載っていました。山田さんは、総司令部のケイデイス民政局次長と懇意であったことからケーデイスをめぐる話題を記したものです。
 以下、山田さんの言葉。

日本国憲法については、なんといってもケーデイスが草案を書いたと言われます・・・むろん全部書いたわけではありませんけれど、彼が総括したことは事実です。
 昭和21年2月3日に出された「マッカーサーノート」(マッカーサーの記した日本憲法の指針)の第二原則にはこんなことが書いてあります。(因みに第一原則は天皇制の維持、第三原則は封建的諸制度の廃止)「国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決の手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための戦争をも、放棄する。」
 第9条については、マッカーサーには理想主義者の一面があるし、歴史に自分の名を残したいという気持ちの非常に強い人ですから、世界史上初めて、メジャーな国で軍備を持たない国をつくり、その憲法に自分がコミットしたいという気持ちもなかったとはいえない。・・・
 ところが、10日後の2月13日に日本政府に示された文案では、「自己の安全を保持するための戦争をも」の部分がすっぽり抜けています。
 私は「あなたは何故それを削ったのか」と聞きました。
 彼(ケーデイス)はこう言いました。
「だれでも自衛する権利はあるのだ。虫にだってその権利がある。だから、いくら自分たちが占領軍だといってもそれを奪うわけにはいかない。(自衛の戦争を放棄するかどうか)それは占領終了後、日本の責任ある政府の決めることだ。」
 それでは「自衛のための戦力はもてる」と何故かかなかったのかと聞くと、「あの時点で、わざわざGHQが自分の方から”自衛のための戦力はもてる”と明記したら、第二次世界大戦をやる時には、日本は自衛だと言って戦争をしたのだから、そこが微妙になってくる。吉田首相も、そんなことには触れてほしくない・・”との意向だった。また軍部に利用されたらかなわないという思いがあったのだろう。」

 吉田さんのことを、あまりに単純化してはいけないかもしれませんが、どちらかというとあの方は、軍部がムチャさえしなければ、戦前はすべて正しいとまでは言わないまでも、ほぼ間違いはなかったというような考え方をされていたんじゃないかと思うのです。】

 吉田首相が、かつて国会答弁で”自衛のための軍隊も持たない”と答弁した意味がやっと
分かりました。日本軍部の復活を何よりも嫌っていたのです。
 以上、9条をめぐる裏話です。