『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』

 野口悠紀雄著『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』(新潮社05年9月刊)という本を読みました。週刊新潮に04年4月から05年6月まで連載したコラムをまとめたものですが、一寸面白い趣向の本ですから、ご紹介します。
 全体は3部に分かれ、第一部が19世紀のカリフォルニヤのゴールドラッシュ、第二部が鉄道王リーランド・スタンフォードによるスタンフォード大学の設立、そして第三部がシリコンバレーの企業家たちとIT産業の発展です。
以下、要点を述べます。

 19世紀のゴールドラッシュで、巨万の富を得たのは、金を採取した人でなく、つるはしやシャベル、丈夫なズボン・・・金採取者が必要とする道具やサービスを提供した人だった(第1部)。
 ITは21世紀の金鉱であり、ITを使おうとする人たちが必要とする道具を提供することが、成功するビジネスモデルで、その例として著者が紹介するのは、検索ソフトのグーグル、ブラウザのネットスケープマイクロソフトに食われてしまったが)、ルーターのシスコなどである(第3部)。
 シスコの名前は、ご存知でない方も多いと思いますが、パケット通信に必須なルーターなる機器で、シェア90%という会社です。
 パケット通信とは、簡単に言うと、送信するデータをパケットと称する小さな塊に分割して個々のパケットを送信先の「アドレス」とそのパケットが全体のデータの中の何番目かを示す「位置情報」を付けて送る送信方式で、これにより各パケットはバラバラに送られても届いた先で再組み立てされる。
 そのメリットは、例えば電話だと、話中は別の人が回線に割り込むことが出来ない。
しかし、パケット通信では、回線を占用しないので、通信コストを劇的に下げることに成功した。
 ルーターとは電話における電話交換機の役割をインターネット通信で果たすものです。

 第二部では、スタンフォード大学の創設に関する物語を取上げている。ゴールドラッシュの19世紀の西部、成功者リーランド・スタンフォード(大学の創設者)とその妻ジェーンの物語です。
 ITといわれる技術体系は、スタンフォード大学によって作られたといっても過言ではない。少なくとも、スタンフォード大学がなかったとしたら、いまのような形では生れていなかったに違いない、と著者は言う。

 以上で,何故、著者が第1部ゴールドラッシュ、第2部スタンフォード大学、,第3部IT企業の輩出を、取り上げた理由が理解できると思いますが、ご用とお急ぎの方は、ITへの著者の考えを知るには、第三部だけ読むことをお勧めします。(続く)