メガバンクの搾取

 最近、メガバンクが空前の利益を上げているのに、法人税を一銭も払わないということが話題になっています。野口悠紀雄さんの新著、『日本経済は本当に復活したのか』(ダイヤモンド社)に面白い指摘がありました。『「黒字亡国論」という誤解』の章を引用します。

『「黒字坊国論」という議論がある。「日米貿易の不均衡は、アメリカの日本に対する搾取である」とするものだ。・・・

 日本は貿易黒字で稼いだドルをアメリカに投資し、その収益を得ている。日本の対外資産が増大するにつれ、資産収入も増大した。そして2005年においては、海外への投資から生じる配当金や金利収入などの黒字額が、貿易黒字額を上回った。・・・

だから、アメリカは日本を搾取しているわけではない。・・この関係(日本の貿易黒字がアメリカに還流する)は、アメリカでの投資が高い収益率を実現する限り、いつまでも継続するものだ。

一国の経済をいくつかの部門に分け、部門ごとに貯蓄投資差額(貯蓄―投資)を定義することができる。家計は、貯蓄投資差額がプラスである。そして貯蓄不足部門が存在する。(日本では長い間企業が貯蓄投資差額マイナス部門であったが、最近の年度ではプラスになった。現在では、政府がマイナス部門である)。つまり、国際経済における日本とアメリカの関係は、国内経済における家計と貯蓄不足部門の関係と同じものである。

ここまでの関係は同じなのだが、貯蓄不足部門がファイナンスを続けられる理由は違う。

国際経済において貯蓄不足国がファイナンスを続けるには・・・通貨の購買力を保持しなければならない。それは、軍事力や権力で保持するものでなく、国の生産力を高めることによって(利息や配当を払い続けることで)維持するものである。・・・日本の場合、家計の貯蓄は銀行預金や郵便貯金になり、それら金融機関が融資や債券購入を行って貯蓄不足部門に資金を供給している。もちろん、将来の返済可能性に疑問が生ずれば、利子が高騰して、ファイナンスは困難になる。しかし、最大赤字部門である国のファイナンスについて、当面このことは生じていない。

 国際経済においては、債権国日本が巨額の投資収入を得ている。・・・が日本国内での赤字ファイナンス部門である家計は、利子収入を通じて十分に報われているとはいえない。

 企業はフローでは貯蓄超過部門になったが、ストックで見れば依然として債務部門である。だから低金利政策によって利益を受ける。家計から企業への所得移転こそ、過去10年間の経済政策の最重要の効果だ。

 そして、これこそが「搾取」というべきである。』

 つまり、アメリカの搾取より銀行の搾取の方が問題だという。同書にはこんな記述も。

『かつて「前川レポート」は、黒字を縮小すべきだと述べた。私も、国内の社会資本を充実すべきだと考えていた。しかし、いま振り返って考えてみると、公共投資を増やしても、本当に必要とされる都市の社会資本でなく、地方の高速道路のようなムダな公共投資になった可能性が高い。そうであればアメリカに投資したのは、ベストとはいえなくとも、まるきり間違ったわけではない。』

 公共投資をすれば、談合企業に搾取される?どっちにしても庶民は搾取されるの?