ジャガーの身売りと金融業

[経済と世相]ジャガーの身売りと金融業
 インドのタタという自動車メーカーが、イギリスのジャガーを買収したという記事が、先月新聞に掲載された。 そう言えば数年前、IBMがパソコン部門を中国の会社(レノボだったかな?)に売却して話題になった。

いったい英米の製造業はどうなってるのかな?と思っていると、野口悠紀雄さんがこう述べていた(『モノづくり幻想が日本経済をダメにする』07年10月刊、ダイヤモンド社)。

【80年代にはまだ明確に意識されていなかったことだが、社会主義圏が資本主義経済に取り込まれることによって、製造業を先進国で行われることのメリットが失われた。特に、膨大な人口を抱える中国の工業化が始まってからは、中国でできる経済活動を他国が行っても、優位性を発揮できないことが明確になった。
 イギリスの製造業は、今に至るも弱体化したままである。しかし、そのことがむしろ、イギリスの経済発展には有利に働いたのだ。この点こそ、「モノづくり」にしがみつく日本が学ぶべき重要な点であろう。
 イギリス経済を復活させたのは、高度なサービス産業、とりわけ金融業である。金融とその関連サービス業の雇用は飛躍的に増えた。
 1986年、イギリスのサッチャー政権は、「ビッグバン」と言われた金融の大幅な規制緩和策を実施した。規制緩和によって激しい競争が生じ、イギリスのそれまでの金融機関のほとんどは、外国の金融機関に買収されるか、合併された。・・・
 日本もイギリスのビッグバンをまねて、96年から2001年にかけて、金融規制緩和を行った。名前も真似して「日本版ビッグバン」とした。
 しかし、今になってみると、日本とイギリスの状況はまるで違うものになっている。イギリスの金融業はイギリス経済を活性化したが、日本の金融業は賃貸したままだ。・・
 何がこうした違いをもたらしたのか?・・・
 イギリスでは、金融機関の大幅な入れ替え現象が進んだ。一方、日本では、外国資本が入ったのは、新生銀行だけだ。それも、「外国のハゲタカによる買収」という強い反発を受けた。その他の金融機関は、合併して名称を変えはしたものの、内実は変わらない。つまり、金融業のプレーヤーが、イギリスでは交代したが、日本では古いままなのだ。】

 ジャガーの話から、「日本の金融業がダメなのは、経営者が代わらないからだ」という話になりました。

一寸長くなりましたが、新聞の記事を参考として添付します。

 1月に約28万円の超低価格小型車を発表したインドのタタ・モーターズが今度は、英国を代表する高級車ブランドのジャガーを買収すると発表した。

 ジャガーは創業1922年の名門高級車メーカー。89年に子会社化した米フォード・モーターが経営不振に陥り、07年6月から売却先を探していた。

 タタは買収により、製品の育成やブランドの熟成に必要な時間をお金で買うことができる。これでタタは乗用車では軽から高級車まで、商用車でも軽から中大型車まで幅広い製品をそろえ、多様化しながら拡大するインド市場に対応できる。

 インドの独立系民族自動車メーカーが、旧宗主国の名門高級車メーカーを買収する。これは、近年の世界自動車産業のパワーバランスの変化を象徴する事象だ。新興国で高級車の販売が伸びているだけに、新興国メーカーの発展の幅を広げるものとして注目される。

 だが、高級車ブランドの買収が新興国メーカーの発展につながる保証はない。それは96年に英ロータスを買収したマレーシアのプロトンの例で明らかだ。プロトンは乗用車用エンジンをロータスと共同開発したが、量産経験がないため、品質改善で苦労した。英国に高コストの開発陣を抱えているが、自社製品の強化に有効活用できていない。

 ジャガーもまた、高コスト構造と品質問題を抱える。フォードも実現できなかった旧宗主国の名門ブランドの再生は、タタの経営手腕にかかっている。

 先進国の名門高級車メーカーの従業員や協力部品メーカーを奮い立たせること。それがタタの新たな国際戦略であり、超低価格車投入とは違うもう一つの挑戦である。(窯)(朝日2008年04月11日)