なぜか売れなかったぼくの愛しい歌
8月1日は、作詞家阿久悠の命日です。本屋を覗いたら、『なぜか売れなかったぼくの愛しい歌』(河出文庫)という本を見つけた。
早速、購入してパラパラめくってみた。阿久さんが「自分の作詞で、これは良い歌だと思ったわりに、あまり売れなかった歌」50篇についての思いを綴ったエッセイです。目次を見ると、私の知っている歌がかなりあるから、売れなかったのでなく、ヒットメーカーの阿久悠さんにしては売れなかったとの意味でしょう。
中から、私も良い歌だと思う曲を紹介します。(【 】内は阿久さんの文)
女の名前は 花という
日陰の花だと泣いていう
外は9月の雨しぶき
抱いたこの俺 流れ者
女は数えて二十一
しあわせ一年 あと不幸
枕かかえて はやり歌
歌う横顔 あどけない
女がにぎった てのひらに
お守り一枚そっとのせ
旅を重ねる折々に
ふれる心の放浪記
【売れると思ったが、意外に売れなかった。暗く悲しい水前寺清子は嫌だったかもしれない。しかし、評判は残り、この作詞作曲コンビに都はるみ陣営が目をつけ、「北の宿から」で日本レコード大賞を得る。】
円舞曲(ワルツ) 曲 川口真 歌 ちあきなおみ
誰かが円舞曲を踊っています
幸せあふれた二人です
私は飲めないお酒を飲んで
泣きたい気持ちをおさえます。
海鳴り 漁火 海辺のホテル
一人に悲しいワルツのしらべ
【何年か後、ちあきなおみは夫君の死の衝撃もあったりで、音楽、芸能の表舞台からは徐々に退いてゆく。そのあたりの真意は、ぼくなどには全く窺い知れないところである。ただ、あれだけの雰囲気と表現力を持った歌手を惜しまずにはいられない】
泣き癖の 酔いどれが
ふらふら いく先は
波しぶく桟橋か 男のいる町か
ぼろぼろの手紙は
別れのものだろうか
死ぬことはない
泣くことはない
棄てるものがあるうちはいい
【昭和45年に書いた北原ミレイの「ざんげの値打ちもない」は、ぼくとしては大の自信作で、日本レコード大賞の作詞賞は間違いないと思っていたのだが、獲れなかった。獲れないどころか、ノミネートさえされていなかったことが後になってわかり、落胆した。】
【北原ミレイのための作詞は、商品というより作品という姿勢でやらせてもらえたので、自由に大胆にかなりのタブー破りも平気で書くことができた。・・「棄てるものがあるうちはいい」が第二作であった。】