大臣 増補版

先日の九州旅行、新幹線車中で読もうと、大学図書館で昨年末出版の岩波新書三冊を借りて携帯しました。それぞれ面白い本でしたから紹介します。
 最初は、『大臣 増補版』(菅直人著、岩波新書)です。
厚生大臣在任中のエイズ問題やO157の食中毒、事務次官汚職に加えて、この増補版では、民主党政権発足後の説明が加わり、日本の民主主義を考えさせられる好著でした。
菅直人氏の政治家としての力量は、私には良く分かりませんが、著述家としては立派なものです。こうした著述を世に問う日本の政治家が増えて欲しいと思いました。
この本の中から話題を一つ。
『行政を監視する機関としては、総務庁の中に行政監察局が存在しているが、これがうまく機能していない。行政機構の中に行政を監察する部署があってもどうしても同じ官僚同士のやることなので、徹底したことができない。・・・
そこで、行政機構の内部にではなく、国会の組織の中に新しい組織をつくり、そこに行政を監察する機能を持たせよう・・』
『政府=官僚たちは強く反対した。その本音の理由は、自分たちの仕事がなくなる、仕事がやりにくくなる、といったものだろうが、さすがにそうは言わない。』
『論拠は憲法65条である。そこには「行政権は、内閣に属する。」とだけある。・・・
この条文を官僚たちはこう解釈する。「行政権は内閣にある。だから、国会にはない。国会から独立したところに内閣はあり、そこに行政権はある。したがって、国会議員であっても、予算や法案の議論はできても、行政のあり方に直接口をはさむことはできない。ましてや行政を監督する権利は国会にはない。それが、三権分立だ」という論法である。』
菅さんはこう反論する。『こうした主張は、軍は国会から独立しているという戦前の統帥権の独立と同じ論理だ。』
『そもそもの誤解は、国会を単に「立法府」でしかないと捉えることにある。そのように捉えるから、行政府、司法府と並列な関係にある、となってしまう。国会は立法をするところだが、同時に内閣総理大臣を決める機関でもある。・・・国会は国権の最高機関である。(憲法41条)』
『「行政権は内閣に属する。」とある、その「内閣」とは何だろうか。・・・内閣は「その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。」(66条)』
『多くの官僚は65条を捉えて「行政権は内閣にある」という意味を「行政権は、官僚にある。」と理解している。』(官僚は内閣ではない)
何故、そういう考え方が官僚たちに根付いたかについて、菅さんはこう述べる。
『明治以来の伝統的な官僚法学は、まず最初に「国家観念」をつくった。国家に主権があり、その下で、この部分は議会に権限を、この部分は裁判所の権限だ、と権限を分け与えてある、というのだ。従って、「行政権とは何か」との問いには、「国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用である。」という答えになる。』
(その国家を体現するのが官僚たちであり、彼らは国民を統治の対象(或は税金の担い手)とみても、主権者としてみてはいないのだ。)