『グリーン資本主義』

 2冊目は、『グリーン資本主義』(佐和隆光著、岩波新書)。
 著者の主張で面白い点を抜書きしてみましょう。
民主党の歴史的圧勝(=自民党の大敗)の原因を私は次のように見る。
 第一に、日本の政界に世襲制が制度化し、とりわけ自民党には、二世代議士がひしめいている。世襲制小選挙区制のきたす矛盾が、自民党凋落の最大の理由だと考える。若い官僚が政治家に転身しようとするとき、自民党の門を叩いても門前払いは必至である。中選挙区ならまだしも、小選挙区制のもとでは、高齢議員は世襲を見越して引退する。多くの場合、父親の議員秘書を勤めていた息子または娘婿が、父親の地盤を受け継ぎ、ほぼ間違いなく当選する。かくして、政治家への転身を目指す若手官僚の受け入れ先は民主党でしかなくなった】
【第二に、派遣労働の規制緩和により非正規社員・職員が増え、雇用不安と所得格差の拡大が生じたこと。アメリカのように・・「みんなが非正規社員」の国ならば、解雇されても、次の仕事を見つけやすい。
 ところが、正規社員・職員が大多数を占める職場に、不況時のバッファー役として雇用される非正規社員・職員は実にみじめである。日本型雇用慣行を維持するのか、それとも、すべての社員・職員を契約制・年俸制非正規社員にするか、二者択一でなければならなかった。そのどちらでもなく、要するに、労働市場の非流動性を残したまま非正規社員・職員を増やす処置を講じた(派遣法を改正した)のは、小泉政権の大いなる失政だ】
【第三に、自民党日本経団連霞ヶ関の経済官庁を三つの頂点とする、永年続いたトライアングル構造に対し、「もういい加減にしてくれ」と選挙民が怒りの狼煙を上げたこと。巨額の献金自民党に上納し、官僚に天下り先をあっせんする日本最強の圧力団体がトライアングルの頂上に位してきた。・・経済財政諮問会議の民間委員4名のうち・・・日本経団連会長が役目柄で経済界代表の1人になる。政府の経済政策を内閣に具申する会議の委員に、圧力団体の長がつくというのは、どう考えてもおかしかった。】
続いて
【09年6月10日午後6時、麻生首相は緊急の記者会見を開き、温室効果ガス排出削減に関する中期目標の総理見解を明らかにした。
 第一に、基準年次を05年とする。
 第二に、20年に基準年比15%(90年比では7.3%)の削減を目指す。
 第三に、削減率は「真水」である、すなわち、森林吸収や京都メカニズム(排出枠取引、共同実施など)による削減を含まない。】
麻生首相の発表した中期目標の問題点を以下に列挙しておこう。
第一に、何故、05年を基準年にするのか。
 EUは90年比で少なくとも20%の削減を宣言しているが、05年ですでに7%達成しているため、05年比では13%になる。
 オバマ大統領は90年比ゼロ%を宣言しているが、・・・05年に90年比14%増となっていたため、05年比14%減となる。従って、05年比でみると日本の削減率が最大になる。最大となる理由は、日本が05年まで十分な努力を怠ってきた(05年の排出量は90年比7.7%増加9からである。
 第二に、第一約束期間(08〜12年)においては、森林吸収により3.8%、京都メカニズムにより1.6%を見込み、両者を併せて、90年比6%削減のうち、5.4%を賄い、「真水」分はわずかに0.6%に過ぎなかった・・・「真水」7.3%を信用できるか?
 第三に、90年比7.3%削減という中期目標は、米国のゼロ%に比べて、一見、高い目標のように見えるが、米国の2020年の人口が、90年比33.4%増(予測値)であることに配慮すれば、排出総量を90年の水準に戻すということは、一人当たり排出量を25%削減することを意味する。日本の20年の人口は90年比2%減(中位予測)、一人当たり排出量は5.4%削減ということになる。
 第四に、環境税や排出枠取引などの具体的措置について、何もふれていない。
(かねて日本経団連は、環境省の提案する環境税や排出枠取引など経済的措置の導入を断固阻止するとの姿勢を堅持している)
 第五に、地球温暖化対策が経済成長を鈍化させる、失業率を高めると、ひたすら強調・・】
 さて、「2020年の温室効果ガス排出量を90年比、25%削減する」という鳩山イニシアテイブはどうか。
【90年度比25%削減という目標は達成可能か。「達成可能である」と私が考える論拠を列挙しよう。
第一に、人口の減少と高齢化により、少なくとも5%程度の削減が見込まれる。
第二に、エコ製品(太陽光発電、電気自動車、LED灯など)の普及の支援策が奏効すれば排出量を大幅削減する余地がある。
第三に、再生可能エネルギーの普及促進のためには、ドイツ型FIT(フィード・イン・タリフ=固定価格買取制)の導入。(日本でも、自民党政権下で法制化された日本型FITが09年11月から施行されたが、ドイツ型FITの方が、普及に有利であると説く。)】
 尚、筆者は固定価格買取制について、次のアーヘン市(ドイツ)方式を推奨している。
買取価格=設置費用÷発電量
 更に、スマート・グリッドについて触れる。
再生可能エネルギー電源で発電された電力は、発電量、周波数、電圧が不安定である。不安定な電力が大量に送配電線に流し込まれると、情報通信技術を駆使しての送配電の安定化、すなわちスマート・グリッドが求められる。・・電力使用料の検針を人が行うのではなく機械による検針するなど、期待される。】
もっとも重大なことは
【2010年から20年にかけての実質経済成長率は、平均年率1%前後で推移するだろう。低成長の結果として、企業が正規社員を減らし、非正規社員をバッファーにする雇用慣行が定着する可能性が高い。正規雇用の創出こそが、鳩山政権に課せられた最大の課題とみなされるべきである。新産業を創出し雇用を増やす唯一の施策が、高い削減目標を掲げてエコ製品の開発・普及を促進することである。言い換えれば、グリーン・ニューデイールこそが、これからの経済政策のバネ仕掛けなのである。、

追伸:グローバリゼーシヨンとテロについても、筆者はこう述べている。
【2001年9月11日の同時多発テロは、最貧国アフガニスタンの反グローバリゼーシヨンに起因するものだった・・イスラム社会の伝統がグローバリゼーシヨンによって「包囲」されることにより「原理主義」と化したのであって、イスラム教がもともと原理主義であるわけではない。】