『パンデミックとたたかう』

3冊目は、『パンデミックとたたかう』(押谷仁、瀬名秀明共著、岩波新書)。

 著者の押谷さんは東北大学医学部教授、瀬名さんは作家、小説「パラサイト・イヴ」で知られています。「パンデミック」とは、伝染病の世界的流行の意味です。

 以下、この本から学んだこと。

 新型インフルエンザの蔓延が昨年は話題になりました。ブタのインフルエンザがヒトに伝染するようになったらしいのですが、ブタのインフルエンザってどういうことでしょう。

【細胞の中には遺伝子があって、そこに書き込まれた設計図がさまざまなタンパク質をつくり、私たちの身体を作り上げる。しかし遺伝子だけでは設計されることのない、もっと他の物質もある。そのひとつが私たちの細胞表面に飛び出している糖鎖だ。まるで川底の石についた藻のように、細胞の表面には糖の鎖が無数に揺れている。この糖の鎖は1種類ではない。さまざまな種類の糖が数珠つなぎになり、ときに枝分かれしつつ、いろいろなかたちをつくる・・・

 インフルエンザウィルスが巧妙なのは、多くの生きものがもっているこの糖鎖を認識して宿主細胞にくっつき、感染する。】

【インフルエンザウィルスには、鳥型、ヒト型といった特別な違いがあるわけではない。ただくっつきやすい糖鎖のかたちがあるだけだ。ニワトリなどの家禽は細胞表面の糖鎖の先端部分がα2-3と呼ばれるかたちをしていることが多い。このα2-3にくっつきやすいインフルエンザウィルスが感染しやすい。一方、人間の上気道の細胞にはα2-6と呼ばれる糖鎖が多い。だから鳥のインフルエンザウィルスを一寸吸い込んだくらいでは感染しにくい。】(つまり、ウィルスと糖鎖が鍵と鍵穴の関係になるらしい。)

今回のインフルエンザ

 【今回のインフルエンザの出現でフェーズは3から6へ引き上げられたわけですが、・・・フェーズ3とは、ヒトからヒトへの感染はないか、あっても限定的かつ非効率的という状態のことをさします。このフェーズは3の状態から、地域レベルでヒトからヒトへの感染が増えて「クラスター」と呼ばれる患者が10人、20人と出始める状態になると、フェーズ4にうつります。このフェーズ4の状態から、二つ以上の国で地域の感染が確認される状態になると、フェーズ5に移ります。そのフェーズ5の状態に加えて世界各国で、地域での確認が確認される状態になると、フェーズ6に移ります。】

 つまり、フェーズは感染者がどれくらい出ているかを示すもので、その病気の毒性の強さを意味するものではない。

 SARSについて、(グローバリゼーシヨンの恐ろしさ)

押谷【このウィルスが広がって、もしパンデミックになったら、世界はたいへんなことになる。少なくとも私はそう思いました。しかし、幸いにも、私が危惧していた事態とは違って、じつは香港も、ハノイも、シンガポールも、トロントも、みな同じ人から感染していた。】(人が自由に移動できるグローバリゼーシヨンは、パンデミックの恐怖と背中合わせだ。)

[参考:SARS]

2003年2月に中国広東省広州から拡がった重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的流行は、人類は常に感染症の脅威にさらされていることを新たに思い知らされる事態でした。中国広東省から香港、ヴェトナム、シンガポール、カナダ、台湾へと瞬く間に世界中へ感染が広がっていきました。(東京都臨床医学研究所HP