原発と権力
『原発と権力』(山岡淳一郎著、11年9月刊ちくま新書)は考えさせられる本でした。以下、その終章から。
【日本ではほとんど議論されていないけれど、中国、米国、インド、フランスなどは今後、間違いなく「トリウム原子力」の開発に力を入れるとみられる。
核燃料になるトリウムは、天然資源で、豪州やインド、中国、米国などに広く分布し、資源量はウランの4倍以上といわれる。トリウムはモナズ石という鉱物中に6〜9%含有されているが、じつはモナズ石の50%前後がレアアースなのだ。レアアース採取後の残渣にトリウムが含まれていることになる。
トリウムにはどんなメリットがあるのか。
「核不拡散」の効果が高い。トリウムは原子力の燃料に使っても、核兵器に転用可能なプルトニュームをほとんど生まない。
一般にトリウムの使用は「溶融塩炉」が適しているとされる。亀井立命館大学衣笠総合研究機構・研究員は言う。
「水を使って熱を取り出す既存の原子炉に比べて、溶融円は高温でも圧力が低い。5気圧程度です。今使っている軽水炉は沸騰水型で70気圧、加圧水型で160気圧。圧力の低い分、装置は丈夫に作られる。燃料棒を使わないので、頻繁に発電をとめて燃料交換する必要もない。高レベル放射性廃棄物の主な成分となる超ウラン元素を生じない。」
「燃料がもともと溶融しているので燃料棒のメルトダウンはない。もし、液体燃料が加熱すると炉の底の小さな栓が溶けて、燃料は炉の下の容器に重力だけで排出されてガラス固化体に変わります。この固化体に放射性物質は閉じ込められ、外には放出されません。」
トリウム原子力は従来のウラン・プルトニューム原子力より優れているようだが、プルトニュームを生まないという最大の利点が、皮肉にも、研究開発を阻んだ。権力者たちは、プルトニュームの軍事転用という昏い欲求を満たせないトリウムを無視してきたのである。
じつは、米国は世界に先駆けてトリウム溶融塩炉をこしらえ、1965〜1969年まで無事故で実証実験を終えている。担当したのはオークリッジ国立研究所の物理学者ワインバーグだった。が・・・権力者はプルトニュームという「余禄」がつく原発を欲した。ニクソン大統領はワインバーグを解雇し、トリウム原子力を「お蔵入り」にした。
日本では、トリウム原子力が政権内で議論されたことは、ない。溶融塩炉を開発したワインバーグが首相の中曽根に手紙を送り、トリウム原子力を提案したが、なしのつぶてだった。「こんな礼を失した政治家は見たこともない」とワインバーグは怒ったとつたえられる。】
つまり、現在の原発は核兵器の原料プルトニウムを生み出すために作られた!
次に日本が潜在的核大国、という話。
【吉田茂は、1952年、米軍の占領が終結する直前に科学技術庁の新設を決意し、行政管理庁長官に具体案の作成を命じた。再軍備への兵器、軍需品の国内生産の必要性を痛感したからだった。
また、中曽根康弘らが提出した原子炉築造予算の趣旨説明で、改進党の小山倉之助は「新兵器や、現在製造の過程にある原子兵器をも理解し、またはこれを使用する能力を持つことが先決問題」と演説した。科学技術庁は原子力開発の推進期間として生み落とされている。
「わが国のプルトニューム管理状況」(原子力委員会)によれば、2009年末の国内、海外に保管中の全プルトニューム量は34.19トン。・・プルトニューム8kgは原爆1個に匹敵するとみると、日本の保有プルトニューム量は原爆4200発分以上である。
使用済み核燃料中に含まれるプルトニュームの量は、米国513トン、フランス227トン、日本は136トンで第3位だ。この使用済み燃料を再処理し、高速増殖炉「もんじゅ」で使えば、同位体比率99.8%の軍用プルトニュームを生産できる。
中国の覇権を抑えたい米国は、日本を「代理」に見立て限定的に核武装を容認したとも言われる。80年代に「もんじゅ」や、軍用プルトニュームを抽出する特殊再処理工場の建設を認めたのは、その証とされる。
日米同盟を額面どおりうけとれば、もしも日本が中国に核攻撃された場合、米国は「核の傘」で守らねばならない。しかし米国が中国を攻撃したら、大戦争に突入する。そこで米国は、日本に自分のことは自分でやってくれ、限定的な核武装を認めた
(もんじゅはナトリウム漏れ事故を起こして運転停止。東海再処理工場の火災事故で特殊再処理工場の建設は中断。)
中川昭一自民党政調会長は、北朝鮮が日本を攻撃するのであれば、核兵器など使う必要はない、原発のどれかをミサイル攻撃すればいい、と講演で語った。
図らずも東日本大震災で、中川が指摘した原発の弱さが世界中に知れ渡った。頑強に作られた原子炉建屋を破壊しなくても、電源機能を喪失させるか、運転制御室や冷却水配管を壊せば、原発はコントロール不能となる。中国や北朝鮮と対面する日本海側には原発が30数基も集中している。】
日本は不沈空母と豪語?した中曽根さんは日本で最初に原発導入を考えた政治家であった。浮沈空母には核兵器が必要と考えたかもしれないが、原発を林立させることで、日本人を核の脅威にさらすことになった?
民主党は原発をどう考えてきたか。
【民主党は、98年の結党以来、原発は代替エネルギー確立までの「過渡的エネルギー」と位置づけてきた。旧社会党が村山政権発足時(94年)に過渡的エネルギーと容認した政策を踏まえ・・党内議論を凍結してきた。しかし、党内に積極推進派もいた。自動車総連・直島正行、東レ・川端辰夫、東電・小林雅夫、関電・藤原正司・・・・ら民間労組出身議員は原発推進派を形成する。
06年7月26日、民主党は原発政策を大きく転換した。日立製作所原子力設計部出身大畠章宏(のち経産相・国交相)、が座長を務める党の「エネルギー戦略委員会」は、原発を「エネルギー安全保障上、欠かせない存在」で恒久的エネルギーとして積極的に進めると打ち出した。高速増殖炉の技術の確立を含めて「核燃料サイクル政策の完成に向けた取り組みを進める」と示す。】
民間労組出身の政治家は、時に経営者よりも企業の利益増進に熱心だ。原発をビジネス機会の拡大と捉えていたのでは?
【政権交代後、鳩山首相は、二酸化酸素を減らすに欠くことのできないエネルギーだ」と発言。 この原発推進の上げ潮を巧妙に利用したのが、仙石由人だった。
2010年のゴールデンウイーク中、国家戦略担当相の仙石は、ハノイで前原国交相と落ち合った。原発を「パッケージ型インフラ」として、ベトナム政府に売り込むためだった。
民主党政権は、原発輸出を「カネのなる木」と信じ込んで前のめりで進めた。だが、はたして原発を「パッケージ型インフラ」として輸出することに国益が期待できるのか。古賀茂明は『日本中枢の崩壊』で「パッケージ型インフラ」の海外展開について、警鐘を鳴らす。
インフラをビジネスにすれば、一時期、日立や東芝など複数の日本企業は潤うかもしれないが、日本の国益という視点でトータルに見た場合、儲けがでるかどうかは別だ。
例えば原発を売り込む場合、30年保証などといった条件がいっぱいでてくる。出来あがって納入しても、事故が起これば一発で儲けは吹っ飛ぶ。】
最後に、メデイアは原発の実態を伝えているか。
【メデイアの原発、電力批判を押さえ込んだのは莫大な広告費だった。『有力企業の広告宣伝費2010年版』によれば、九電力と沖縄電力、電源開発、計11の電力会社の広告宣伝費は884億5400万円、販売促進費は623億700万円。東京電力は、広告宣伝費243億5700万円に加え普及啓発費を200億円以上使っていたといわれる。さらに・・電気事業連合会は、啓発費に年間300億円。経産省や資源エネルギー庁、文部科学省も独自の広報予算を組んでおり、これらをすべてあわせると電力、原子力関連からメデイアにわたるカネは年間2000億円程度とみられる(出稿量一位のパナソニックは広告費771億円)。
電力業界の原発宣伝攻勢は、科学技術庁の意向で電事連に原子力広報専門委員会発足した74年ころに始まったといわれる。】
refer;
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111015/223221/