「通貨」を知れば世界が読める

 円ドル相場が75円台を付けています。「1ドルは50円になる」と述べる浜・同志社大学教授の見解を、彼女の新著(『「通貨」を知れば世界が読める』(浜矩子著、PHP新書、11年6月刊))で読みました。以下、面白いな!と感じたことを抜書き。(カッコ内に小生の私見を追記しました)
「為替介入」は、「藪医者の処方箋」に過ぎない。
「1ドル50円」という「まさか」は必ず起きる。
 
ドルは(今でも)基軸通貨だという「誤解」が、1ドル50円を受け入れられない心理的障壁になっている。

「機軸通貨」とは、「その国にとっていいことが世界中にとってもいいことであるという関係が成り立っている国の通貨である。
 通貨というものは常に、その発行している国や地域にとって、もっとも都合のいいような運営をされる。だから、機軸通貨国も「自分さえよければ」という運営をするのだが、それで他の国もよくなる、という関係がある時、その通貨は真の機軸通貨だ(通貨は、昔は金本位制だったが、今日、金本位制を採る国はない。管理通貨制である。管理通貨とは、通貨の発行国が自国の経済にとって、最適な運営(管理)をする通貨である。だから、通貨の発行国に良い通貨管理が世界にとって良い通貨管理であるとき、その国の通貨が機軸通貨でありうる。ドルは機軸通貨の資格を失った)。

 プラザ合意後に、円高が急速に進んだ。1985年初めには250円だった円ドル相場は、1987年には120円台にまで上昇した。輸出中心の経済にとっては厳しい展開である。そこでどうするか。日本の政策はここで大きな選択の失敗を犯したと思う。このことが、その後の日本経済に大きなダメージを与えたと考えざるをえない。残念なことでる。

 1987年10月のニューヨーク株大暴落、いわゆる「ブラック・マンデイ」。当時の筆者は、いつまでも借金をして財務拡大路線を放棄しようとしないアメリカに、苛立ちを感じていたので、ひそかに快哉を叫んだ。くるべきものが来た。これで世界経済は均衡回復の方向に動き出す。そうも期待した。
 だが、そうはならなかった。それを拒んだのが日本のバブル経済化。バブル真っ最中の日本の需要が、世界需要に上げ底をもたらしたのである。そのため、世界はブラック・マンデイの衝撃から軽やかに立ち直ってしまう。アメリカは、比較的軽症でこの事態をのりきることができた。バブルの日本が支えたのである。(この時点で機軸通貨の座を滑り落ちるべき米ドルを日本が支えた)
 そして、「東アジヤの奇跡」といわれたアジヤ地域の経済成長も、日本のバブルの余波で、アジヤに流れた円資金(「円キャリトレード」によるジャパン・マネーの流れ)が生んだものだが、同時に、アジヤ通貨危機を起こし、またリーマン・ショックの火種になった。債権大国日本の通貨、円はグローバルに世間にゆさぶりをかける。その影響力はまさに、「隠れ機軸通貨」というにふさわしい.

1997年という年は、日本では不良債権問題がピークに達しつつあった年である。株価も大暴落した。こうした年で、ヘッジファンドと彼らに資金を託していた日本の投資家たちも、日本国内での損失を補填するため資金が必要となった。損失補填のためのジャパン・マネーの大逆流が始まった。アジヤからの資金の大撤退が始まった。投資撤退は、すなわち対象国通貨の売り、そうしてアジヤ通貨の大暴落に歯止めがかからなくなった。
IMF通貨危機の当事国たちに対し一層の金融引き締めを求めた。これは、既にバブル崩壊の打撃に苦しんでいる国々にデフレの追い討ちをかけるようなものだった。
何故そうなったか。IMFは1944年のブレトンウッヅ協定によって生まれた。パックス・アメリカーナ」の通貨的側面の担い手として誕生したのである。現に、IMFの本来的な役割は国際収支難に陥った諸国への短期的な金融支援である。端的に言えば、ドル不足に陥った諸国へのつなぎ融資である。
そこには、あくまでも世界がドルを必要としドルが世界を回すという前提がある。アメリカ以外の国々に対して、ドル不足をきたさないよう厳しく対外収支を管理するよう要求し、それができなくなった時にはしぶしぶ乗り出してドル資金を融資する。これがIMFの基本的本務だったのだ。

アジヤ通貨危機はもちろん、日本にもダメージを与えた。なかなか浮上のきっかけをつかめない日本は低金利政策を採り続けた。日本が超低金利を続けていたため、他国も金利を抑えざるをえない。

世界各地で金利が低い状態となっていれば、投資によって資金を増やすのもまた、難しくなる。特に、常に高いリターンが求められる投資銀行にとっては、資金があっても投資先がないという困った状態に陥ってしまう。(サブプライムローンの)証券化という危険な錬金術に踏み出してしまった。
リーマン・ショックの原因もまた、日本にあったのだ
こうしてみていくと、円という通貨がいかに世界を動かしてきたかがわかる。しかもそれについて無自覚なわけだから、円はなかなかハタ迷惑な通貨でもある。

(以下、1ドル50円を予想する理由をドルの側と円の側から。)
ドル側の事情。2010年版の「一般教書演説」でオバマ大統領は、「向う5年間でアメリカの輸出を倍増させる」と輸出倍増宣言を打ち出した。
リーマン・ショック以前までのアメリカの経済は、ITと金融が支えた。だが、それが崩壊してしまった以上、輸出立国を目指そうということである。輸出立国は通貨政策上は「ドル安」のほうがいいということになる。「輸出倍増宣言」はドル安容認宣言である。
TTPもまたアメリカのこうした戦略の一環。米国の輸出を増やそうという仕組みで、日本の輸出を増やそうという仕組みではない。この仕組みは日本が加入しないと、その狙いを達成できない。だから、日本の参加を米国は要求し、米国の要求に素直な民主党政権は、加盟を急いでいる。関税がゼロになっても、1ドル50円になったら、輸出増進の効果はない。・・私見です。)
円の側では、2011年4月現在、東日本大震災の影響により、東北、北関東を中心に企業の生産活動全体が停滞している。原発事故にともなう停電と節電により、工場の操業にブレーキがかかっている。しばらくはこの状況が続きそうだ。まさに経済的大ピンチである。
経済の先行きは分からない。財政事情は悪化が必須だ。そして金利は低いまま。超円安に転じても不思議はない。ところが、・・・(世界最大の債権国日本の通貨は)そうはなっていない。ここにも隠れた機軸通貨の秘めたる威力が現れている。


 以上、ポイントを抜書きしましたが・・・さて通貨から世界が読めるとお感じでしょうか?