さよなら!僕らのソニー

『さよなら!僕らのソニー』(立石泰則著、文春新書、11年11月刊』を読みました。雑誌の書評欄で取り上げられていたので、読んでみようと、先月中旬書店に行ったのですが、売り切れとのことでした。数日前、書店をのぞいたら、二版が出ていました。
 ソニーは、日本でもっともグローバル化が進んだ企業といえると思いますが、企業がグローバル化した時、日本的経営は、どのように変わるのだろうかを知りたいと、買い求めました。
この本の結論は、最終章の次の言葉で要約できます。
『会社は株主のものであるとするなら、06年3月期から08年3月期までの3年間に外国人株主の持ち株比率が過半数を占めたとき、ソノーは一時、外国企業になったと言える。いまも、外国人株主の持ち株比率は40%を超える。「もの作り」に関心がなく、エレクトロス事業も分からない外国人がCEOを務める限り、彼がソニーをエレクトロニクス企業からエンタテインメント企業へ導いても誰も責められない。
 なぜなら、ソニーの取締役会は社外取締役が大半を占めるが、その彼らも全員がエレクトロス事業と縁もゆかりもない人で、その人たちが外国人CEOの強力なサポータだからである。
 ソニーは日本企業であり、エレクトロニクス・メーカーであり続けると信じて疑わない日本人とソニーファンにとって認め難いことであろうが、グローバル企業になるということは、そういうことなのである。・・・・「さようなら!僕らのソニー」』


 ストリンガー氏が会長兼CEOに就任した2005年以来、コストカットの嵐がソニー全体を覆った。08年の夏だった。オープンしたばかりの大型店舗のテレビ売り場で、著者はこんな光景を見る・
「ブラビヤ」の52インチが2台並べて展示してあった。一方が、33万円で26%のポイントが付く。他方は37万円と価格が高くポイントは10%と低かった。しかも販売価格の安いほうの画面が、明らかに綺麗だ。
 店員に聞くと、「値段の高いほうは、新機種だから。安いのは古い機種で、製造が打ち切られ在庫セールです」。でも、旧型の方が新型より画質が優れているのはなぜか?
「それは、旧機種にはDRCが搭載されているからです。新機種は(DRCを)積んでいません」。DRCというのは、標準放送(SD)の映像をハイビジョンクラスの映像に作り変えるソニー独自のデジタル高画質技術のことである。この優れもののおかげで、ブラウン管式平面テレビ「ベガ」の躍進があった。ほとんどのテレビ局の番組がSD放送の当時、それらをハイビジョンの美しい映像の番組にしたDRCは、ソノーの差異化技術の象徴であった。
 こんなことが考えるだろうか?技術のソニーが、技術で勝負せずに価格で競争している!
 
 05年3月7日、ソニーは会長兼CEOの出井氏と社長の安藤氏の二人が同時に辞任、社内取締役の全員の退任を発表した。新CEOはソニー米国会長兼CEOのストリンガー氏だった。記者会見で、異例な事態が明らかになった。
 ストリンガー氏が日本に居住せず、自宅のあるニューヨークから日本へ定期的に通う(一ヶ月のうち1週間か10日)ことになったという。
 記者会見には著者も出席していたが、前の席の女性外国人記者が、誰でも危惧する疑問をストリンガー氏にぶつけた。
「日本語が話せない、エレクトロニクス・ビジネスの経験もない。日本にも住んでいない、ソニーの企業風土の中で育ったこともないあなたに、ソニーのCEOが勤まるのか?」
 それに対し、ストリンガー氏は「航空会社のトップは、飛行機のことはしらないけど、経営をしている」
 「航空会社は運営会社(オペレータ)であって、メーカーではない。ソニーは、エレクトロニクス・メーカーである」と著者は嘆く。
 ストリンガー氏の夢は、ソニーをコンテンツとネットワーク事業を含む広い意味のエンターテインメント企業に変貌させることだった。
 
液晶テレビ「ブラビヤ」からDRCを取り去った翌年、09年の薄型テレビの世界市場では、トップを占めたのは韓国のサムソン(22.6%)、2位にはソニーを抜いた韓国のLG電子(13.2%)、3位に2位から交替したソニー(11.5%)、そして4位にパナソニック(8%)と続く。
 国内市場に目を転ずると、液晶テレビ市場ではシャープが40%で断トツの首位、2位に東芝(19%)、3位にパナソニック(17%)、そして4位がソニー(13%)である。
 2010年も世界の薄型テレビ市場の順位に変動はなかった。そしてソニーのテレビ事業は、11年3月期も750億円の営業赤字を記録した。これで7年連続の営業赤字。その間の累積赤字は、約5000億円といわれる。しかも11年8月時点で翌12年3月期のテレビ事業の営業赤字が決定的である。

  第1章にこんなエピソードが載っている。筆者の友人が、ボストンの大学院に留学していた時の体験だそうだが、「経営学」の授業に、ひとりの「優秀な」白人学生も受講していた。彼はいつも決まって日本と日本企業を批判した。例えば、「日本人は猿真似ばかりする。自分でオリジナリテイのあるものを生んだことがない」
 留学して半年ほど経った頃、経営学の教室では、白人学生のいつもの日本と日本企業批判が始まった。しかし、その日は批判だけでなく、「どんな企業が理想かといえば」と言って、彼が理想とする企業の名前を具体的に挙げた。
「米国のメーカーのソニーを見ろ。つねに独創的な製品を市場に送り出しているし、アイデアも独自のもので、他社のまねなどしない。こういう企業こそ、日本企業は見習うべきだ」
 独自のアイデア、他社の真似をしない日本の企業ソニーグローバル化で、独自のアイデアを持たないアメリカのソニーとなった。すべては、出井氏の後継者選びの誤りから始まったというのが、著者の嘆きです。