震災後

『震災後』(副題が「そろそろ未来の話をしようか」)を読みました。作者は、福井晴敏、11年11月(小学館)の刊行です。著者は『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』などの作品で知られる。推理小説作家。
 週刊誌に昨年の6月から11月にかけて連載した小説で、毎週の原発事故のニュースを背景にして物語は展開します。
【福島の事故が起こってから数日、政府は考えられる最悪の想定を故意に明かしませんでした。原子炉がメルトダウンしていたかどうかは、さしたる問題じゃない。いちばんの脅威は燃料プールです。あのまま原子炉建屋に近づけず、千本以上の燃料棒を貯蔵しているプールが蒸発しきっていたら、どうなっていたか・・・本当なら、東京を含む関東・東北全域の避難勧告が必要でした。
 でも政府はそれをしなかった。自分たちの体面を守るためなんかじゃない。不可能だったからです。東京だけで1300万の人間がいる。その全部を避難させるオペレーシヨンなど、日本には存在しない。・・・・燃料プールに注水が成功するまでの数日間、政府は・・日本という国家は、国民の生命と安全を守るという大原則を放棄したのです。】
この話、小説だけの話ではないのですね。日経ビジネスオンラインの2月8日には以下の記事がありました。
【「原発事故の最悪シナリオが避けられたのは“幸運”に恵まれたからです」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120207/226949/?mlp
この原子力委員会のシミュレーション計算の結果は、「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」というメモとして、すでに公表されていますので、多くの方がご覧になっていると思いますが、このメモは、この福島原発事故が最悪の事態に進展した場合、「強制移転をもとめるべき地域が170km以遠にも生じる可能性」や「年間線量が自然放射線レベルを大幅に超えることをもって移転を希望する場合認めるべき地域が250km以遠にも発生することになる可能性」があったことを明らかにしています。
 メモの中では、「首都圏三千万人の避難」という言葉は直接には使われていませんが、「170km以遠」「250km以遠」ということは、端的に言えば「首都圏三千万人の避難」にも結びつく可能性があったということを示しています
原子力委員会のメモに、「最悪シナリオ」とは、次のようなものです。
 【まず、1号機の格納容器や圧力容器で水素爆発が起こり、容器外への大量の放射能の放出が生じる。これに伴ってサイト内の被曝線量が急激に増大し、作業員はサイトからの退避を余儀なくされる。その結果、すべての原子炉と使用済み燃料プールの注水と冷却が困難になり、時間の経過とともに、原子炉と燃料プールがドライアウトを始め、まず、4号機プールに保管してある使用済み燃料が溶融崩壊を起こし、コンクリートとの相互作用により、大量の放射能の環境への放出が始まる。そして、それに続いて、他の原子炉や燃料プール内の燃料も溶融崩壊を始め、さらに大量の放射能の環境への放出が起こる。
 これが、「最悪シナリオ」と想定されたものです。
 従って、このシナリオが起こるためには、「水素爆発が起こる」「サイト内放射線量が急激に増大する」「作業員が退避を余儀なくされる」「原子炉と燃料プールの注水と冷却が不可能になる」「原子炉と燃料プールの核燃料の溶融崩壊が起こる」といった事象が連鎖的に生起することが前提となるわけです。
 そして、原子力委員会のメモによれば、この「最悪シナリオ」が起こっても、最も早く放射能の放出が始まる4号機の燃料プールでも、最初の放射能の放出が始まるのが「6日後」であり、本格的な放出が始まるのが「14日後」という試算結果となっています。 】
こんな話ばかりでは救いがありません。そこで終盤に、フクシマ以後について、推理作家、あるいはsF作家らしい展開を語ります。「そろそろ未来の話をしようか」
小説の主人公は、日本のエネルギーの未来を、太陽光発電に期待する。
太陽光発電の欠点は、曇天では発電ができないという不安定性にある。そこで、地球上でなく宇宙空間に発電所を設置すれば、稼働率100%になると説く。宇宙で発電してマイクロ波で地球上に送電する。受電用アンテナ、直径5kmのアンテナをフクシマの跡地に建設することを提案します。
 成功すれば、日本はエネルギーの輸出国になりうる。勿論、成功させるためには、数々の技術開発に挑まなくてはなりません。しかし、今の日本の閉塞状況は、挑戦すべき目標を失っているところに起因するのではないか!