福島原発の真実 

佐藤栄佐久氏の本2冊を読みました。
福島原発の真実」(平凡社新書、11年6月刊)と「知事抹殺」(平凡社、09年9月刊)です。佐藤氏の経歴は、1939年福島県郡山市の生まれ。83年参議院議員、大蔵政務次官を経て88年福島県知事。第5期、06年9月、県発注のダム工事をめぐる汚職事件で追求を受け、知事辞職。逮捕。08年8月有罪判決(執行猶予付き)、控訴し、09年10月二審は、有罪だが、「罰金ゼロ(収賄額ゼロ)」という前代未聞の判決だった。最高裁に上告中。 ご存知の方も多いと思います。

 2冊の本を読んだのは、フクシマ事故以前に事故の前兆ともいうべきものを、知事として感じていなかったか、もう一つは、この汚職事件の検察の捜査は、その後発生した厚労省の村木さんの事件、及び小沢(元民主党代表)事件の捜査と関連はなかったかの興味です。実際、佐藤氏の事件の捜査には、渦中の人、前田検事が関与しています。
 云うまでもないのですが、「福島原発の真実」は、3.11後の発刊であり、「知事抹殺」は3.11以前の著書です。
 読んでみると、両書はほとんど同じ内容で、新書版の方は要約本という感じです。つまり、知事抹殺と福島原発の真実とは密接な関係にあるという著者の主張が読み取れます。

 原発がすべて停止状態にあることが、報道されていますが、東電の原発がすべて停止したことは、以前にもあります。03年4月15日、東電の17基の原発が安全点検で全基停止しました。
 02年8月、福島第一・第二原発などの検査記録改ざんが発覚し、この不祥事で、9月2日、平岩外四氏ら東電経営幹部が総退陣したのです。この経緯について。
 8月29日、福島県に届いた保安院からのFAXによると、
『福島第一・第二原発で、80年代後半から90年代にかけて、東電が実施した点検作業で発見したひび割れやその兆候等の発見、修理作業について不正な記載が行われていた。点検でみつかったひび割れなどを隠して運転を続けていた。その不正の箇所は、柏崎刈羽原発を含めて3箇所の原発で29件もあるという。
 労災にハインリッヒの法則というのがあります。1件の重大事故には29件の軽微な事故があり、300件の事故に至らなかったヒヤリハットがあるというものです。
 フクシマ事故の前に、隠蔽された事故があり、何百件のヒヤリハットがあった?事故は起こるべくして起こっていたのです。
福島第一・第二原発の点検は、アメリカのGE社の子会社ゼネラル・エレクトリック・インタナショナル社(GEII)が請け負っていたが、改竄を指示したのは東電側である。
 内部告発を行ったのは、GEIIに勤めていた日系アメリカ人社員のスガオカ・ケイ氏である。保安院の説明によれば、『00年7月に内部告発文書を通産省が受け取り、その後、01年後半にスガオカ氏がGEIIを退職し、「身分を守ってくれなくても結構だ」という同意があったため、11月以降、GEIIとGEに協力を要請した。両者で内部調査を行ったところ、他にも虚偽記載の疑いがあることが見つかった、という。』
 まったく理解のできない保安院の説明ですね。
内部情報者の個人情報を保護しながら調査するのが、告発を受けた保安院の仕事のはず。告発を受けたのが00年7月、調査を始めたのは01年11月。通産省保安院はその間告発は放置していた。のみならず、保安院はその告発内容を、よりによって東電に口頭で紹介していた。
「こんな告発がありましたがどうですか?」
と、調査を東電に任せ、「報告は告発内容と一致しなかった」と口をぬぐってしまった。
しかも、保安院は、告発者の氏名などの資料を東電に渡していた。

 9月2日、東電の南社長は記者会見で謝罪し、自らのほか、荒木会長、榎本副社長、平岩・那須両相談役の辞任を発表。会見の前に、東電は隠蔽疑惑のある原子炉を全て停止して点検すると発表した.


次に佐藤知事の汚職事件。『福島原発の真実』から経緯を追ってみます。
「知事大株主企業の不可解取引と題する記事が『アエラ』05年1月31日月号に載った。
 【郡山山東スーツ(佐藤知事の弟が社長)が本社の土地と工場の土地を売却したが、その相手は水谷建設というサブコンであり、前田建設工業の下請け会社である。前田建設工業は県発注の土木工事を受注しており、発注者の立場にある県知事と癒着が疑われるというのだ。】読売新聞にも同様な記事が4月25日載った。
06年秋になって事態が動き出した。
9月25日、知事の弟(山東スーツ社長)が東京地検特捜部に逮捕、27日、道義上の責任をとるということで、佐藤知事は辞任したが、10月23日、東京地検特捜部に逮捕された。
特捜部の見立ては『アエラ』の記事と同じ。【弟と共謀して、県土木部長の坂本に「木戸ダム」の受注を前田建設工業に取らせる「天の声」を発し、便宜を図った見返りに、山東スーツの土地を前田建設工業の意を受けた水谷建設に買い取らせた。いわゆる「市価」と売買代金の差が賄賂だという。】
1審の東京地裁は私に懲役3年、執行猶予5年、・・・追徴金7300万円の有罪判決。収賄罪では賄賂の金額を追徴金として没収する。
検察側、被告側双方が控訴した2進の東京高裁の判決は懲役2年、執行猶予4年。追徴金はなし。つまり有罪だが、賄賂は「ゼロ円」なのである。】
佐藤知事の汚職事件に関する経緯は以上ですが、小沢陸山会事件で出てきた水谷建設の名がここでも出てきます。
【二審の東京高裁で驚くべき事実が明らかになった。
一審の法廷で「賄賂の意図で土地を買った」と証言した水谷建設元会長の水谷功氏が、自らの事件での収監直前に、「土地取引は自分が儲けようとしてやった。賄賂行為はない。知事は事件には関係なく、濡れ衣だ」と、何と携帯メールで宗像紀夫主任弁護人に連絡してきたことが明らかになった。
水谷氏は取り調べの検事に「こちらの望みどおりの供述をすれば、お前の法人税違反には執行猶予をつけてやる」と云われ、賄賂だと供述したのだという。弁護団は水谷氏と直接面会して確認し証人申請を行ったが、東京高裁はこれを却下した。】
09年秋になると、事態は思わぬ方向に展開した。
厚労省の村木局長の郵便不正事件は、一審の大阪地裁で出た無罪判決が確定した。その直後、主任検事を務めた前田検事が証拠のフロッピーデイスクの日付を改竄した事実が明らかになり、最高検察庁に逮捕された上、証拠隠滅財で起訴、有罪判決を受けた。
私の事件で水谷功氏が取引した相手が、前田検事なのだ。】

何故、検察は佐藤知事を標的にしたか?
福島原発の真実」は、原子力政策をめぐって、政府(経産省)と筆者との間で数々の対立があったことを述べているが、長くなるので割愛する。ただ著者は、第9章でこう述べている。
【雑誌『フォーサイト』の05年6月号に、大変意味深長な記事が載った。
「エネルギー危機の『日本的帰結』とは」と題されたこの記事は、9.11同時多発テロ後の世界のエネルギー争奪戦の水面下での争いを描き、「翻って資源小国日本では」と、『アエラ』と『読売新聞』の報道を紹介し、私についてこう書いてある。
「反原発派ではないが、地方権力のトップだけに、経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院ほか研究機関や関連業界を含めた『原子力ムラ』にとっては、「福島のおかげで国と地方の地位が逆転した」というほど厄介な存在だった」
そして、おそらくは経産省の官僚、の発言を紹介している。
「封印されてきた原発建設の論議が政府内部で再開されている。
まずささやかれたのは『福島のトゲを抜け』だった。『どの国でもエネルギー政策は国家の基幹でしょう。それを日本だけは、地方の鼻息をうかがわなければならないなんてあまりに不条理だ。・・・(中略)原子力が不可欠なのは常識ですよ。』」
この記事の最後はこう閉めくくられている。
「佐藤知事が沈黙を余儀なくされるとき、必ず原発建設が浮上する」
以下、私の偏見?の論です。
特捜検察の動きは、国策と密接に関係するというのが、私の疑惑です。小沢陸山会の事件でも、あの程度の事件で起訴するなら、国会議員で起訴されない人はほとんどいないと思う(誤解を避けるために云うが、小沢氏に批判されるべき行為がないといっているのではない)。にも拘わらず小沢起訴に到ったのは、小沢氏が(検察の考える)国策にとって好ましくなかったからではないか。
佐藤前知事の起訴も政府の考える国策(原子力政策)にとって好ましくないと見られたからでしょう。でないと、賄賂額ゼロ円での起訴は考えられません。