グローバル恐慌の真相

株がバブル後の安値をつけたと報道されています。米国の失業率が悪化、ギリシャ、スペインの金融不安のためらしい。世界同時不況はありうるだろうか。
グローバル不況はやってくるのでしょうか。
「グローバル恐慌の真相」という本を読みました。
若い気鋭の経済学者二人の対談で、二人の説に全面的に賛同するというわけではありませんが、今後の世界経済を考える上で、参考になるヒントが満載の本でした。


『レジューム・チェンジ』を読んで、中野剛志(71年生まれ)なる筆者に興味を持ち、図書館で」『グローバル恐慌の真相』(集英社新書、11年12月刊)を借りてきました。この本は、中野剛志氏と氏の後輩にあたる柴山桂太・滋賀大学経済学部准教授(74年生まれ)の対談です。
柴「どうすればアメリカが今の帝国型の繁栄を続けられるかといえば、アジヤの国々がモノを作って、アメリカへの輸出を認める代わりに、金融面でちゃんとアメリカを支えてもらわなきゃ困るわけです。アジヤの国がドル建ての資産保有を見直すとか言い始めることが一番困る。・・・アジヤの国々にアメリカの経済を死ぬ気になって支えてもらう、そういう要求をどんどんしてくると思いますよ。アメリカにとって最も忠実なパートナーであり、かつアメリカ経済を支えるだけの貯金がある国はどこか、日本です。これまでも日本に対して自分たちを支えるよう水面下で要求してきたけれど、これからはもっともっと露骨にやってくるんじゃないか。・・・日本を自分たちの経済圏にとどめ置いて、日本から資金がアメリカに還流できるような仕組みを維持し続けるという方向にますます舵を切る・・
中「アメリカの政府文書を読めば一目瞭然ですが、日本が明白にターゲットにされていることは確かです。その典型がTPPというわけ。
 TPP推進論者は、米韓FAAを羨ましがって、日本も乗り遅れるなと主張します。ですが、米韓FAAこそ、アメリカの収奪戦略の典型です。
 韓国はアメリカの関税を撤廃してもらいましたが、韓国企業はすでにアメリカでの現地生産を進めているので、関税など最初からほとんど意味がありません。
 その代償に、韓国は、農産品はコメをのぞいてすべて自由化することになる。自動車は米国メーカーが参入しやすいとうに、安全基準や排ガス規制を緩和することになりましたし、共同組合の共済はアメリカの要求どおり、解体です。法務・会計・税務サービスや知的財産権の条項も、アメリカの要求に従っています。投資家は不利益をこうむったら政府を訴えることができるというISD(Investor-State Dispute)条項もあります。
 オバマは、米韓FTAアメリカ人の雇用を7万人増やすと喜んでいます。これは、韓国の雇用が7万人奪われるということです。

中「80年代に国際競争力で日米摩擦が起きたときによく言われたように、日本の製造業の強さというのは、日本文化と密接に関っています。・・モノづくりの強さと言うのは、その国の国民性や文化と切り離せない。製造業のようなものを発展させるには、勤勉さとか、人と協力しあう慣習とか、倹約して将来のために投資しようとする精神とか、いろんな文化的な条件や過去からの蓄積が必要なんです。
 製造業が発展するためには一般労働者の水準が高く、彼らが意欲的に参加意識をもって集団行動することが不可欠です。ところが、貧富の格差を拡大して中間層が失われているのが、アメリカで、中間層の再生に失敗しているのがオバマ政権です。
中「ハイエクは、個人の自由が大事だと言っているのですが、(彼の)個人の定義が一般にイメージされているのとは違うんです。・・・
柴「ハイエクが1940年代半ばに書いた「真の個人主義と偽りの個人主義」という有名なエッセイがあります。真の個人主義というのは、伝統や共同体に束縛された個人を考える。偽りの個人主義というのは、まさに物理学でいう原子のように、人間関係とか歴史とか慣習・共同体から切り離された孤独な個人。
こういう個人というのは、非常に弱い存在で、全体主義的なリーダーのところにわっと集まって、国のいいなりになってしまう。」

柴「ブレトンウッヅ体制の下では資本移動が制限されていますから、資本や技術を持たない途上国が成長するのはたいへんだった。お金がないから急激には成長できない。資本移動が自由化されたことで、外資をうまく呼び込んだ中国のような国が、急速に発展する。しかし一方で大量のマネーが流れ込むので、途上国を舞台としたバブルが生まれやすい。」
中「金融のグローバル化が進んだ現在では、バブル崩壊のショックが世界的に予測もつかない形で連鎖する。資本主義にバブルはつきもんですが、90年代初頭までは、S&L危機にしてもアメリカ国内で閉じている話でした。しかし今は違う。金融のグローバル化が進んでいたために、リーマン・ショックは世界中に飛び火、ついに同時多発的な国家債務危機にまで発展した。」

中「資本主義というのは、将来の不確実性に向かってお金を出す行為です。・・・
 投資という行為が働かなければ、資本主義ではなくて、単なる市場経済なのです。90年代に日本の高コスト構造の是正を唱えた構造改革論者は、市場経済のことだけを考えていた。本質的な資本主義の構造を考えないで、目の前の取引だけを効率的にやればいいというのは単なる市場経済でしかない。」
 等々、現下のグローバル経済を考えるためのヒントが盛沢山。こういう若手の経済学者が出てきたのは楽しみです。