祖国とは国語

 藤原正彦さんの『祖国とは国語』という本を読みました。03年4月講談社から出た本が、今年の1月1日新潮社から文庫(¥420)として出版されたものです。
 3部に分かれ、第一部は国語教育絶対論、要するに、小学校の教育は「一に国語、二に国語、三.四がなくて五に算数、あとは十以下である」(このくだりは小生、自分の体験から大賛成です)、「小学校に英語を導入したいと言う論者は、小学校の授業時間で、英語を入れることでどの科目を減らせというのか!」等々氏の持論を編修したもの。第二部は、氏の家族との交流を描くエッセイ、氏の教育論がユーモアたっぷりです。
 第三部は『満州再訪記』の圧巻。ご母堂とともに氏のご家族が『流れる星は生きている
』の地を訪ねられた(平成13年)旅行記です。最近、「歴史認識」なる言葉をよく耳にしますが、論者は是非この文を読んでから「歴史認識」を論じて欲しい。
 わずか70ページ余の文章だが、「国家とはなにか?」「歴史とは何か?」を語って間然するところなしです。
 同書から卓論を紹介すると、
1.愛国心と祖国愛は違う
英語で愛国心にあたるものに、ナショナリズムとパトリオテイズムがあるが、二つはまったく異なる。ナショナリズムとは、通常、他国を押しのけても自国の国益を追求する姿勢である。私はこれを国益主義と表現する。
 パトリオテイズムの方は、祖国の文化、伝統、歴史、自然などに誇りを持ち、またそれらをこよなく愛する精神である。私はこれを祖国愛と表現する。家族愛、郷土愛の延長にあたるものである。
 祖国愛はどの国の国民にとっても絶対不可欠の精神である。・・・
 一方、国益主義は(政治家でない)一般人にとって不必要なばかりか危険でもる。・・・
2.戦略なき国家の悲劇
 (日露戦争の)翌年、日本が世界史的勝利の美酒にまだ酔っていた頃、アメリカはセオドア・ルーズベルト大統領の下問により、陸海軍統合会議がオレンジ計画の作成に着手した。日本を敵国とする戦略計画である。驚くべきことが三つある。日露戦争の翌年という早い時期であること。洞察どおり35年後に日米が激突したこと。そしてこの戦争がほぼその時のプラン通りに戦われたことである。
 冷戦が終焉を告げた直後の1990年、アメリカのジェームス・ベーカー国務長官は「冷戦中の戦勝国は日本であった。冷戦後も戦勝国にさせてはならない」と語った。
 ビッグバン、グローバリズム、小さな政府、規制緩和構造改革、リストラ、ペイオフなどが、90年代から今日に至るまで矢継ぎ早に登場し日本を席巻した。その間の日米経済逆転を見ると、これらアメリカ発の要請が戦略的なものであることは間違いないだろう。10年以上続く未曾有の不況は、軍事外交での盟友であるアメリカが、冷戦後、経済上では敵となったことに気付かなかった、戦略なき国家の悲劇とも言えよう。(続く)