祖国とは国語(続き)

3.大局観と教養
 例えば日本の食料を考えてみよう。穀物自給率を見ると、昭和35年に82%だったものが平成9年には28%にまで激減している。ちなみに他の先進国では、その間、フランスが116%から198%、ドイツが62%から118%、日本と同じ島国のイギリスでさえ53%から130%といずれも逆に急増させている。
 これら統計を見て、祖国愛など古いと思っている地球市民は、「世界はグローバル化していて、各国個別のアンバランスを気にしていたら、世界貿易は縮小する。市場原理を貫くことこそ世界そして日本の繁栄につながる」とまず思うだろう。
 今こそ祖国愛と思う人は「国防と食料だけは、他国との協力体制は当然としても、自ら確保するのが独立国家だ」という考えが頭に浮かぶだろう。家族愛が何よりも強い人は「輸入先が一国に偏っているし、大きな国際紛争でも起きたら子供たちは1年もたたぬうちに餓死してしまう」とまず背筋を凍らせるだろう。
 ・・議論の出発点はこのようにして決まる。そこから出発し、地球市民派は「自給率の低落は、市場の力により日本の構造改革が順調に進んでいることを示している。
すばらしい」と論理的に結論するだろう。祖国愛派や家族愛派は「欧米先進国並みとまではいかなくとも、100%を目ざし具体的計画を早急に練るべき」と結論するだろう。

 その人の教養とか、それに裏打ちされた情緒の濃淡や型により、大局観や出発点が決まり、そこから結論まで論理で一気に進むということになる。どんな事柄に関しても論理的に正しい議論はゴロゴロある。その中からどれを選ぶか、すなわちどの出発点を選ぶかが決定的で、この選択が教養や情緒でなされるのである。論理は得られた結論の実行可能性や影響を検証する際に、はじめて有用となる。
4.アメリカ型社会の裏面
 アメリカは多くの点で魅力ある国である。例えば、能力が他のどの国より公正に評価されている。一般的に能力の高い、長期滞在の外国人にとって、アメリカはどこよりも住みやすい国といえる。しかし彼らには、国民の大半を占める能力の高くない人々が、実力主義や競争社会の中で、どれほどの苦悩や欲求不満にあえいでいるかは見えにくい。
 論理の裏に、日本に比べ人口当り20倍の弁護士や恐るべき訴訟社会のあること、合理の裏に、果てしないリストラや日本の数十倍の精神カウンセラーがいること、などは見えにくい。実力主義の裏の、上位1%が国富の半分近くを所有する、という極端な弱肉恐食も見落としがちである。90年代の経済絶好調の中でも、貧困率が増加していたことを、かの国の特殊事情と片づけがちである。

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