景気とは何だろうか

 岩波新書で『景気とは何だろうか』(山谷悠紀夫神戸大学教授著)という本、一年ほど前に読んだ本です。卒論の構想を考えようと、もう一度読み直してみました。「これは、素晴らしい!」と再認識。一年前の感想文を再録することにしました。

 日頃,政治家や学者の論を聞いたり読んだりしていて、いつもこの方は「景気」をどう定義しているのだろうと、疑問に感じているので、エコノミストの正式な「景気の定義」を知りたかったのです。
 定義については、内閣府の作成する「景気動向指数」、日銀の実施する全国企業短期経済観測調査(短観)、それに内閣府作成の「国民経済計算」(いわゆるGDP統計)の三つで定めている「景気」の説明が詳細に述べられていた。
 それはそれとして,最近の日本経済に関する著者の観方が面白かった。

【日本経済は全体として見ると、2002年を底として、2003年から2004年と景気は回復に向かってきた。そのことは統計で充分確認できる。ただし、その中身を見ると、大企業、とりわけ製造業はたしかに相当程度良くなっている。しかし、中小企業にはその良さがほとんど波及していない。とりわけ非製造業にあってはそうである。そして、家計部門にはまったくといっていいほど景気の回復は生じていない。
むしろ状況はなお悪化を続けている。―――2005年初の日本の景気についていえば、こういうふうにまとめられる。
 こうした部門間の大きなバラツキは、過去の景気回復期にもあったことなのか。答は否、である。景気回復初期にはままそうした景気回復のまだら現象も生じていた。経済の各部門がいっせいに回復に向けて動き出す、ということは通常は起りえない。どこかの部門が先行して良くなる、残りの部門は取り残される、景気回復初期にそうした現象が起ることはむしろ当然である。
 しかし、今回の景気回復は2002年に始まった、とされている。既に3年近くが経とうとしている。にもかかわらず、中小企業、家計という、数の上では圧倒的多数を占める部分が回復から取り残されている――こうしたことは戦後初めての経験、といっていい。】
  日本経済の構造変化が起っているのだ。
 ここのところが面白いのだが、著者の指摘を要約すると、一国経済を考える時、大事なことは、国内各部門,各階層に(平たく言えば)お金がまわってゆくシステムが機能すること。そのシステムを小泉改革は壊してしまった。だから、お金が回るところは回るが、回らないところはまったく回らない(この意味で日本の経済構造が変わった)。そのため、統計で「景気」の指数を算出しても、実体は、凄くいいところは極端に良く、悪いところはまったく悪いので、平均値が示す実体は存在しない。もはや「景気」の数字で政策の運営を考えるのでなく,別の数字,例えば失業率・雇用者所得・年間總労働時間などを政策運営の指針とした方が良い。
 「不良債権処理」は、景気の回復には逆効果であった。03,04年に景気がやや好転したのは、海外景気の影響で、「不良債権処理」など小泉内閣の政策がなければもっと好景気になったと、著者はデータを示して説明し、小泉さんは意図したのかどうか分からないが、既に、経済構造は変革されてしまった、と述べている。

【景気の構造変化が起っているとして、それはいつ頃からか、という問題である。・・・
構造変化は1997,1998年頃から、というのが用意している答である。】というのだが・・・