「節度の経済学」の時代

 内橋克人著「<節度の経済学>の時代」(朝日文庫)なる本をよみました。どんな本かを、同書に載っていた二つのエピソードを抜書きして、紹介しましょう。
 一寸旧聞ですが、旧長銀の話です。アメリカの投資会社はいくらで買い取ったか?
【10億円(政府が保有していた普通株式の取得価格)とプラス1200億円(新生銀行が発行した普通株3億株の取得価格)。合計1210億円であった。
 旧長銀の経営破綻に際してつぎ込まれた公的資金はすでに4兆円にのぼっている。それが1200億円そこそこで売り渡された(実質は10億円。1200億円は買い手が株式で保有)。
 買収したファンドは新生銀行の株式を3年後に上場する。すでに公的資金によって自己資本比率が類を見ないほど改善された優良金融機関の株式公開が、どれほど巨大なキャピタル・ゲインをもたらすか。誰にでも予測範囲内のことではなかろうか。
 しかも、そのキャピタル・ゲインへの課税権が日本にないことを、民主党岩国哲人氏が国会で明らかにしている。(2000年2月、衆院予算委員会)。
 国民は、(「そごう」について)法的処理という透明な解決法を選んだ・・・しかし、その代償としてさらに1200億円を差し出す(瑕疵担保特約で)。
 考えてみれば、この合計額1200億円はちょうどアメリカの投資会社が旧長銀を買い取った際に必要とした金額のほぼすべてに相当する。】

 早く言うと、4兆円の税金を付けてタダで、長銀を米国の投資会社にプレゼントしたわけ。
 それで、税金が足りなくなって、地方交付金をカット、地方は仕方ないから、財務省と折衝して地方税を上げた。小生の地方税は一昨年比4倍になったということだ。
 歴史の教えるところ、江戸幕府が改革を叫ぶとき、例外なく(税の)「増徴」が後に続いた。

 もう一つ、イラク戦争の後始末について
【フランスのNGO「ATTAC]によると、米軍当局は、イラク港湾都市ウムカスルで市民への飲料水提供を次のような方法で着手した・・・・。
 まず住民の中から飲料水運搬に適したタンク・ローリー車の持ち主を探し出し、無償で軍用の水を与えた。ついでその持ち主に、この水を「有料」で住民に「販売」するよう教える。戦火によって破壊されたインフラに苦しむ住民は、やむなく乏しい懐からマネーをはたいてその日の飲料水を購わなければならない。やむなく、それまで
の何倍、何十倍という対価を支払って生命をつなぐ。
 ・・・たまたまタンク・ローリー車を所有していた、多少とも裕福な階層の住民は・・・またとないチャンスを手に入れることができた。水を売るなどとは考えることもなかった彼らは、その水を商品化することで一躍、富を手に入れる。すなわち、「市場」なるものの旨みを覚える。こうして市場主義の「餌付け」が行なわれた。

 (米軍にしてみれば、単に飲料水を運ぶ費用ぐらいは、自分たちで持て、というつもりだったかも?)

 よく知られているところですが、イスラムの教えにあっては「人も金も神が与えた」ものであり、人は「労働の対価以外の報酬は受けてはならない」という戒律のもとに生きています。
 このイスラムの戒律は、たとえば銀行においても、イスラム銀行は利息をとらない、という制度を墨守しつつ、世界にすでにひろがっています。これこそ「世界市場化」をもって国益となすアメリカにとって、最大の脅威にほかならない。世界普遍化をめざす「マネー資本主義」にとっての最大の障害物こそ、ほかならぬイスラムの世界であったわけです。】