失われた10年とは?

『「失われた10年」は乗り越えられたか?』(下川浩一著、中公新書)という
本、題名に惹かれて買ってきました。著者は、日米両国の自動車産業の研究者として著名です。
 読んでいて一番面白かった記事は、企業の戦略について説明した次のくだり。
【かつて有力テレビメーカーの一つだったモトローラがカラーテレビから撤退し、そのブランド名クェーサーと主力のシカゴ工場を松下に譲渡し、松下がはやばやと現地生産を始めた(1975)。
 今にして思うと、モトローラには遠大な戦略があった。当時TIなどがベンチャー企業的に始めていた半導体産業が今後伸びるとみて、半導体経営資源を集中し、利益が薄くなっていたカラーテレビは思い切って売却し撤退するという大胆な構想をいち早く実行に移したのである。】
モトローラーが元テレビメーカーとは、不勉強でしりませんでした)
 しかし、読み終わってみて、何か期待した内容と違うな、という感想です。
 私が期待したのは、自動車など国際競争力の強い製造業には、『失われた10年』などなかった!10年間呆然として停滞をしていたのは、金融業と政府および政府系企業であって(金融を銀行に頼らざるを得ない中小企業はそのトバッチリを受けざるを得なかった)、少なくとも、製造業に属する企業は、営々として生産技術や商品開発に努力し、それなりの結果を出してきたというレポートでした。
 しかし、著者の最大の論点を、終章「失われた10年」の教訓と日本企業の今後
から抜書きすると・・
 【日本の企業の中のかなりの部分には、人減らしさえすれば損益分帰点が下がるというので、きちんとした戦略のないリストラを行い、最近になって中国アジヤブームの恩恵をこうむって何とか業績を持ち直した企業も少なくない。人べらしだけに目がくらんだ安易なリストラは、その場かぎりの危機回避には役立っても、今後のより高度化するグローバル競争に伍していける戦略を欠如しているだけに、問題はより深刻である場合が多い。】
 論旨の主文とは必ずしも言えませんが、次の記述に考え込みました。
 【90年7月の上位15社の株式時価総額は125.6兆円であるが、06年1月末の上位15社の総額は123.66兆円・・・ここにきてバブル絶頂期と同水準に近づいたということである。
 世界全体の株式市場はグローバル化により大きく拡大を遂げ、株式時価総額にして約4倍に成長している。その結果10数年前には日本の株式時価総額は世界の4割弱とと第一位の座にあったものが、1割前後にまで下がって、製造業は斜陽でもビッグバン先進国であるイギリスよりも低位となっている。もっともこの数字は、日本株に対する世界の市場の評価が回復に向かえば今後はある程度上昇することはありうる。
 上位15社の株式時価総額ランキング・・・業種別企業別のランクの大幅な入れ換えがみられる。
 90年当時銀行だけで時価総額68.8兆円と全体の55%に達していたのが、06年には39.3兆円で、32%と半分近くに下っている。
 これに対して製造業のウェイトは、90年当時の22.3%(28兆円)から45.3%(56兆円)に約2倍のウェイトの上昇となっていて、日本の製造業の國際競争力が依然として高いことを示している。】
 私の考えこんだのは・・・
 「失われた10年」の実体は、日本の金融業の失速とそれに伴う株式市場の下落、及びなんら有効な施策を講じ得なかった政府の失態であったのでは?