藤沢周平の世界

 友人の評判を聞いて「藤沢周平の世界 創刊号」を買ってきて通読しました。

 藤沢周平の文章って、とてもリズムが良いのです。
 私がリズムが良いというのは、文章を声に出して読む時、息を次ぎたいポイントにくると、必ずそこに句読点がある。作者のリズムと自分の読むリズムがピタっと合う感覚です。
 「蝉しぐれ」の抄録がでていますが、あらためて藤沢文学のリズムを堪能しました。

 海坂藩の行政組織の解説が載っていました。これが考えさせられます。
庄内藩の場合、役職の支配関係については、史料不足のため十分に解明されていないが、身分上の支配と勤め向きの支配の二重構造になっていたようである。たとえば代官は、身分上は組頭の配下だが、職務上は郡代の支配を受けていた。・・・身分上あるいはいざというときの軍隊編成(ほとんどなかった)上はいずれも組頭の配下だが、役職上は互いに別々の上下の関係をもつことになった。』
 つまり、能力を発揮させる役職人事と、待遇をきめる身分制が別の、二重構造だった。
 近年、議論されている能力制は、本当に能力を発揮させるのだろうか。西郷隆盛は「能ある者に役職を、功あるものに高録を」という趣旨の言葉を残したそうだが、昔の人の方が、はるかに人間性を透徹して見た組織論を考えていたように思われる。

 藤沢さんの次の言葉が面白い。
 <物を増やさず、むしろ少しずつ減らし、生きている痕跡をだんだんに消しながら、やがてふっと消えるような生涯を終ることが出来たらしあわせだろうと時どき夢想する。>
 多分同じような意味だろう。先日、喫茶店で雑誌を見ていたら、五木寛之さんのエッセイが載っていた。
<突然死はこわい。準備期間のある死は、自分の身辺を整理して死ぬことが出来るが、突然死で、あの乱雑極まる自分の部屋を他人に見られると思うと、ぞっとする。>
 同感の方が多いのでは?