藤原先生の卓説

 いや実に痛快な文でした。藤原正彦さん、文藝春秋新年号の巻頭論文「国家の堕落  驕れる経済人よ、猛省せよ」です。以下、そのさわりを紹介しますと、
【市場原理を至上のものとする新自由主義は、決して学問的に確立されたものではない。ハイエクフリードマンの提唱した学説に過ぎない。この学説は1980年以降のアメリカを風靡した。この流行りの思想にかぶれた、アメリカ帰りの一部の経済学者やエコノミストがまずこれを喧伝した。これに、不況をなかなか克服できずに苦しむ経済界が藁をも掴む思いでとびつき・・・強力に支持した。
 改革は構造改革と名を変え、特に小泉政権になってからは熱病のように跳梁した。
・・・グローバル化のバスに乗り遅れるな、の合言葉のもとに、古くからの誇るべき国柄を制度疲労の名の下にいとも簡単に両断された。
 経済不況に国民が狼狽し、長期的視野や大局観を見失ったのである。
「たかが経済」と一喝する真の指導者がこの国にはいなかった。】
 これが総論です。以下、各論。
【ここ数年の改革の一大発信地とも言うべきは、内閣府における経済財政諮問会議と、規制改革・民間解放推進会議の二つであった。市場原理主義者たちはここにメンバーを送り込んだり、ここに直接提言することで、動きの鈍い省庁の頭越しに物事を決定してしまおうと画策するのである。・・・
 多様な考えをもつ者の公正な審議によってではなく、市場原理を新興宗教の如く、狂信する少数の集団が、内閣府官僚と組んで日本を思うままに改造してきたのである。
 これまでの経済財政諮問会議と規制改革会議のメンバーは・・・
日本の叡智を結集したようにはとても思えない。・・・
市場原理至上主義は、共産主義にも似て、単なる経済上の教義ではなく、
経済の枠を越え、あらゆる面に影響を及ぼすイデオロギーである。】
【これら二つの会議、経済財政諮問会議と規制改革会議で猛威をふるっているのは主に財界人とエコノミストである。彼らは内閣総理大臣という後ろ盾のあるこの会議を牛耳り、経済ばかりか、何を勘違いしたのか畑違いの政治・医療・教育と手当たり次第何にでも口を出す。】
【私にとってとりわけ我慢ならぬのが教育に対する口出しである。
 ・・・小学校に英語を導入すべきと言ったのも、必修にすべきと言ったのも主に経済人であった。国民が英語を話せないと経済競争から取り残されてしまうということ
らしい。
 世界で最も英語の上手なイギリスの経済は戦後ずっと、世界で最も英語の下手な日本の経済とは比べ物にならない程度のものであった。
・・・小学校でのパソコン教育を言い出したのも主に経済人である。・・ 小学校や中学校でパソコンなどと戯れていたら、日本からパソコンを作る人間ソフトを作る人間がいなくなる。このような人間を育てるには、算数や数学を一生懸命に学ばせ、論理的思考を鍛えておかねばならない。】
 以下、後半は、延々と教育に関する誤れる改革について述べられる。教育改革に対する不満が、氏をしてこの論文を書かせたらしい。
 しかし、その教育改革に関する誤りの拠って来る所以は、市場原理主義に基づくいわゆる「構造改革」にあったのではないか。・・・ 良く言ってくれた!というのが、私の読後感です。
 皆様に一読を勧めたい卓説だと思います。