「石の肺」を読む

『国は1975年に、アスベストの発ガン性をみとめたうえで、禁止ではなく、法
律で厳しく管理して使用することにしました。
しかし、じっさいの現場では、アスベストの危険などは露ほども知らされておら
ず、管理とは名ばかりだったのです。』
この一節が、この本のすべてを要約します。『石の肺  アスベスト禍を追う』
佐伯一麦著、新潮社、07年2月刊)という本です。
著者は、三島由紀夫賞大仏次郎賞を受賞した小説家で1959年生れ、高校卒業
後、電気工を生業としつつ作家修業をした。電気工の時代、アスベストを吸入したこ
とから、肋膜炎、喘息を患う。自らの体験をベースにアスベスト禍を取材したのが本
書です。
実に淡々とした文章で悲惨なアスベスト災害を語っているのが驚きです。
自分が苦しんだ病について語るのに、これほど冷静に語れるものか、さすが作家!
です。

私が石綿問題に関心を持つのは、40年前、職場で青石綿を扱っていたからです。当時は誰も石綿が危ないなどとは思っていなかった。だから、平気で石綿版を旋盤で挽いていた。石綿に限らず、トリクレンなども平気で素手を突っ込んで製品を洗っていた。今から思うと、”無知”ということはおそろしい。でも、知らなかったものは仕方がないのです。問題は知った人が、それを人々に知らせようとしなかったことです。
石綿が使用禁止になったのは1995年で、白石綿は、使用禁止はたった2年前(0
4年)でした。

日本は石綿のほとんどを輸入していました。輸入量のピークは1974年(35万ト
ン)で、70〜90年にかけて大量に輸入しています。石綿を吸ってから発病するま
で20〜30年かかりますから、これから患者数は増加し2040年頃ピークを迎え
る。事実、中皮腫死亡者数は95年以降急増し、04年で953名になっている。悪
中皮腫(肺の癌)というのは百%、石綿が原因だそうです(06年3月のアスベス
ト新法により、病院で確実に悪性中皮腫中皮腫はほとんど悪性)であると診断され
れば、すべて補償の対象になる)。
しかし、アスベストを吸入した人がみな悪性中皮腫になるわけではない。中皮腫
進行が早いのですが、石綿肺は、じわじわと、まさに真綿で首を絞められるのように
病状が進む。隙間のない救済をうたったアスベスト新法までが、その補償の対象を中
皮腫と肺がんの人のみに限って、石綿肺を除外している。
アスベスト問題は、エイズ薬害問題のように、厚生労働省の失政問題になるのは、
そう遠くないというのが、この本を読んでの感想です。