渋滞学

 「体内の渋滞学」という面白い話題を紹介しましょう。(新潮選書「渋滞学」から)

 車の「渋滞」は皆さんご承知ですが、人間の体内にも「渋滞」があります。たとえば、動脈硬化は、血管の内部にコレステロールがたまってその径が細くなる病気ですが、そうなると酸素を運ぶ赤血球が通りづらく渋滞を起こすのです。

「渋滞学」はASEP(Asymmetric simple exclusion process)という単純な数学モデルを用いて、諸現象を研究しています。

ASEPの簡単な例を紹介しましょう。
時刻 t  ○○●●○●○○●○○
時刻t+1 ○○●○●○●○○●○

ここで○は粒子のない場所、●は粒子が詰っている場所を示し、時刻tから粒子全体が右へ動く場合は、t+1で、右の場所が詰っているときは動けない。空いているときは、一個分右へ動くというルールで運動するモデルです。

このASEPは、生物学で細胞内のたんぱく質生成過程を研究していたマクドナルドとギブスによって1968年 考案されたモデルだそうです。

メッセンジャーRNAの上を、複数のリポゾームというたんぱく質が滑っていって、たんぱく質合成に必要なアミノ酸を判断し、トランスファーRNAがそのアミノ酸を運んできて、たんぱく質を合成するのだそうです。

 そこで問題になるのが、リポゾームがmRNAの上で渋滞しないか?

 これを研究するためにASEPというモデルを使って研究をしたのだそうです。

 体内の渋滞のもう一つの例、脳の神経細胞です。
核が存在する「細胞体」から「軸索」と呼ばれる部分が長く延びています。

軸索の先端でのシナプスの活動に必要なたんぱく質は、まず細胞体で合成してからはるばる軸索内を輸送する必要がある。この時運び屋をやるのが、キネシンとかダイニンとかいう分子モーターです。

ここで、この運び屋が渋滞することが問題になります。

というわけで、最初、分子生物学で「渋滞学」が発達して、その理論が車の渋滞にも応用できるということです。
学問の進歩って面白いと思いませんか?(古希の青春より転載)