人生の達人たち

本屋を冷やかしていて『縁は異なもの』(光文社文庫)なる本を見つけました。先日亡くなられた河合隼雄さんと故白州正子さんの対談を編んだものです。面白そうだと購入。読んでみました。

K 私は自分のやっている仕事は職人に似てると思うこと多いですね。
S だって小林秀雄さんだって、「俺は職人なんだ」っていってました。
K ああ、そうですか。
S 「文学なんかじゃない、職人なんだ」って。
K 私もまさに学問ではない、職人なんだっていつもやってますよ。
S それ、ほんとだと思うの、あたくし。職人になるからすぐお金が欲しくなっちゃって(笑)。

 そう言えば、先日話題になった阿久悠さんなんか、歌詞作りの職人だった。それに、トヨタ方式の大野耐一さん、生産管理の職人だったなぁ。

 こんなくだりがありました。(後書きから)
 2年ほど前だったろうか、白州さんと対談したときに、「もう少しであちらに行くところだったの」という話をお聞きしたことがある。病気が重くなり、医者も臨終を告げようかと思っているとき、白州さんが「大丈夫、大丈夫」と繰り返し言われ、医者がもう死んでいく人がどうして大丈夫などというのかと、けげんに思ったと言う。
 ところが、白州さんはそのとき実は素晴らしい体験をしておられた。山道の尾根のようなところを歩いていて、桜が咲き吹雪となってくる見事な景色のなかで、自分は一人であちらに行けるから「大丈夫」と思い、「大丈夫、大丈夫」といわれたらしい。心配してくれなくても、一人でちゃんと行けるからという意味だったのだ。それを医者が誤解してね。といかにも嬉しそうに話をされた。
 それから1年ほど経って、作家の大庭みな子さんと『伊勢物語』について対談することになった。・・・『伊勢物語』は読んでみるとなかなか面白く、読みすすんでいったが、最後にショッキングなのにぶつかった。
 ついに行く道とはかねて聞きしかど
 きのふけふとは思はざりしを
というのである。・・・大庭さんに会う前にビジネスマンに講演したときに、この歌の上の句を示して、皆さん毎日のビジネスで忙しいことだろうが、たまには、この下の句を自分はどうつけるかと考えてみるのもいいのではないか、などという話をした。
 大庭さんはすぐに、「先生なら、どんな下の句をつけますか」・・・自分でも思いがけず、・・・
「聞きしに勝る、この花道ぞ」

 人生の達人たちの話でした。