「記憶力を強くする」

 故米原万理さんの書評を集めた本(「打ちのめされるようなすごい本」文芸春秋刊)を読んでいたら、池谷裕二著「記憶力を強くする」(講談社ブルーバック)を激賞していた。
 「物欲しげなタイトル・・・どうせハウツーもののゴミ本だろうと、危うく看過するところだった。
弱冠30歳、理系の最先端の研究を担っているのは、この年齢の学者たちだ。・・・日本の出版界も読書界も、素晴らしいサイエンス・ライターの出現を祝福すべきだろう。「年をとると記憶力が低下する」という常識の嘘も覆してくれるし、・・・」(01/03/01)
 池谷裕二?そうだ、先日紹介した「進化しすぎた脳」の著者です。で、早速図書館で「記憶力を強くする」を借りてきました。確かに米原さんが誉めるだけの本(脳科学の入門書としてはベストです)。この本から一つだけ話題を引用します。
【(脳の記憶は)コンピュータの記憶方法とはずいぶん異なります。コンピュータはアドレス方式とよばれる方法で記憶します。つまり記憶する場所があらかじめ用意されているのです。しかも、その場所は数多くの部屋からなり、順に部屋番号(アドレス)が決められています。・・・
 一方、脳では、記憶は神経回路にたくわえられるのですが、じつは、同じ神経細胞がほかの記憶にも使われます。なぜなら、一つの細胞に一つの記憶しかできなかったとしたら、記憶の容量はかなり限られてしまうからです。これでは回路と同じ数の情報しか覚えられなくなってしまいます。・・記憶容量を確保するためにも、脳はいろいろとやり繰りしながら、神経細胞を使い回さなければなりません。
 その結果として、ひとつの神経回路にはさまざまな情報が雑居して・・・・情報は互いに相互作用してしまいます。人の記憶が曖昧である理由はまさにここにあります。人は間違いや勘違いをよくおこします。さらに、記憶が時間とともに変わったり薄れたりしてしまうことさえあります。・・・
 しかし、逆にこの性質が、脳に「人間性」を与えていることに、ぜひ気付いてほしいと思います。保存情報が相互作用するということは、まったく異なるものごとを関連付けることができるということです。これはすなわち私たちが行っている「連想」という行為そのものです。さらに、情報を関連付け、まったくちがった新しいものが形作られるかもしれません。これこそが「創造」という行為です。私たちが想像したり、思索したり、創造したりという行為は、記憶が相互作用できる神経回路にたくわえられているということの恩恵なのです。】
 この著者は確かに異才です。私は2年位前、新潮文庫で「海馬」(糸井重里共著)を読んだのが最初ですが、米原さんは6年前から、その異才ぶりを認めていたようです。
追伸;池谷裕二について知りたい方
http://gaya.jp/ikegaya.htm