ウルトラ・ダラー

 今年の正月、最初に読んだのは、手島龍一著「ウルトラ・ダラー」(新潮文庫、07年12月刊)です。
 「この作家は日本のフォーサイスだ!」と思いました。

 フレデリック・フォーサイス (Frederick Forsyth)という英国の作家をご存知と思います。
 【1938年、イギリスのケント州生まれ。空軍パイロットなどを経て、ロイター通信、BBC放送の記者を務めた後、作家に。71年ドゴール暗殺をテーマに描いた長編「ジャッカルの日」で小説家としてデビュー、世界的なベストセラーとなる。以後、「オデッサ・ファイル」「戦争の犬たち」「神の拳」など次々とヒットを飛ばし、約30年あまり、スパイ小説の第一人者として活躍。作品は、綿密な取材に基づいた詳細な描写が特徴である。】
 小生は「ジャッカルの日」、ドゴールの暗殺未遂事件を題材にしたこの小説を初めて読んだ時、凄い作家が現れたと思った。今回は「日本にもフォーサイスのようなストーリー・テラーが現れた」と思いました。

 手嶋さんは、彼のホームページhttp://www.ryuichiteshima.com/によると、【元NHKワシントン支局長。ワシントン支局長時代には、米同時多発テロ事件に際し、11日間連続の中継放送を担当した。
 2005年にNHKを独立後は、外交・安全保障問題を素材にメディアや書籍に幅広い執筆活動を展開。06年に発表したインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』は、物語が現実の出来事を追いかけていると話題になり、ベストセラーに。同書は07年に文庫化されるも、発刊2日後には増刷を記録、単行本に劣らぬ注目を集めた。】 
 物語は、北朝鮮がUSドルの精巧な偽札「ウルトラ・ダラー」を作る。この偽札を使ってウクライナから巡航ミサイルを買い付け、同時に米国経済を混乱させようとする話に、日朝国交正常化交渉や外務省内部の権力抗争が絡んでくる。そして、中国の狙いについて小説ではこう述べる。
台湾海峡に有事が持ち上がった時、日本がアメリカと台湾に加担しないようあらかじめ足かせをはめておく」それが北朝鮮の核とミサイルだというのです。
 偽札を作るために、日本から熟練印刷工を拉致したり、さもありなんと思わせる物語の展開。もちろん、読者サービスのラブストーリーも抜かりありません。
 外務省エリートに関して「現代史の重要な一ページを飾るべき公電は何者かによって抹殺されたのではない。後世の審判を仰ぐべき第一級の史料たる公電は、そもそも初めからかかれていなかったのだ」は、意味深長な記述です。
 1日、2日の二日間、巻を置くあたわず、読み通しました。