日本経済 見捨てられる私たち

『日本経済 見捨てられる私たち』(08年2月青灯社刊、¥1470)という本を読みました。
著者は山家(やんべ)悠紀夫さんです。岩波新書で「景気とは何だろうか」を出された方です。
一言で言って、「経済学を知らない人のための現下の日本経済の説明書」と言ってよい本ですが、内容は、「小泉改革が如何に間違っていたか」を説明しています。

 昨年末、年収200万円未満の勤労者が1000万人を越えたと報道されました(1997年の調査では800万人。つまり9年間で200万人以上増えた)。最近では、企業に働く人の3分の1以上が非正社員だと伝えられています。どうしてこんなことになったのか?知りたい方におすすめの本です。以下、私の要約です。

 【1998年を境に日本の経済社会は大きく変わり始めました(この年以後、自殺者が年3万人を越しました)。何故98年から変わったか?その背景に「経済のグローバル化」、そして「構造改革」がある。筆者は、小泉内閣構造改革は必ず括弧付き(「構造改革」)と表記します。「構造改革」(構造改革一般でなく)には、特別の志向があるというのです。

 「グローバル化」と「国際化」とは違います。国際取引が活発になることが「国際化」。「グローバル化」は、「国」を越え「国境」を意識させない「地球化」です。

 「グローバル化」の時代にあっては、国際競争力を強化するため「構造改革」が必要だという論理がありました。誤りです。何故なら、日本の企業の国際競争力は十分に強い。強いから貿易黒字が20年以上、世界一です。

 昔の経済学では、為替相場は各国の対外収支が均衡するように決まるとしました。貿易黒字が大きければ為替相場が変動し、黒字を減らす。

しかし、現在は貿易取引より資本取引のウェイトが圧倒的に大きい(貿易取引は全体の1%)ため、そうならない。トービン税(為替取引にかける取引税)の導入が望ましいと著者は述べるが、金融取引で稼いでいる米国が反対する。

 (「構造改革」は、資本取引を多くする、海外の資本が日本に入りやすくする制度改変ではなかったか?と私は思いますが)著者は「構造改革」とは、「企業が儲かるような経済構造へと、日本経済を変えよう」という主張だったといいます。こうした主張が経団連と米国政府に全面的に支援されたというわけ。

 2006年度の経常利益は54兆円、「構造改革」が始まった年、1997年度のそれは28兆円ですから、9年間で26兆円の増加、ほぼ倍増です(法人企業統計)。企業が儲かるようにする「構造改革」は完璧に成功した。しかし、その9年間、国民総所得は、520兆円から525兆円と1%の伸びに過ぎない。企業の収益が増えたのは別の部門の所得が企業部門に移っただけ。所得の減った部門の消費は当然振るわないから、「構造改革」は、景気を良くせず、むしろ景気の足を引っ張った。】と、まぁこんなことが説明される本です。

 追伸:青灯社という出版社は04年の創業ということですが、面白い本を出しています。
http://www.seitosha-p.com/