居酒屋タクシー愛用のエリート官僚に是非読ませたい

 先日、愛知県図書館をのぞいたら、経営者の執筆した本の展示をやっていて、『企業崩壊』(吉野俊彦著、98年12月刊日経新聞社)という本を見つけました。

 吉野さんは日銀のエコノミストとして有名。また鴎外の研究者として著名ですが、「経営者かな?」と経歴を見たら、日銀理事を退任したあと、山一證券経済研究所の理事長、会長、特別顧問をされている。

 それで題名の意味が分かりました。山一崩壊について、当事者とは言えないにしても内部に居た人としてのコメントと、日経新聞に連載した「私の履歴書」(1992)を併せた本でした。

 以下は、同署から小生の同感したポイントのメモです。

高橋亀吉先生の歴史書を推薦する』という項で、

 【自然科学のように実験のできない社会科学の分野においては、歴史こそ現状分析と対策樹立のための最も重要な手段であることを学んだ。】という文が目に付きました。

 実験のできない社会科学の分野」で、何を以って正否を判断するかは、私のかねてより関心を抱いているテーマです(これについては別の機会にメールします)。

 歴史から如何に学ぶかの一例です。

 【松方正義が大蔵卿に就任する4年前の明治10年、鹿児島に西郷隆盛の反乱が起こり、これを鎮圧するため政府は7ヶ月にわたる西南戦争を戦わねばならなかったが、その経費は当時の一般会計の歳出と変わらないほどの巨額に達したので、増税国債の発行で不足する分を、何の裏づけもない政府紙幣を乱発して賄った。この結果、財政の大幅赤字・不換紙幣の大増発から物価は暴騰し、正規の生産活動は阻害され、投機が横行し、国際収支は巨額の赤字となる等、日本経済は大混乱におちいった。・・・

明治14年・・・、松方正義の登場になった。彼は・・増税と不急不要の歳出削減により財政の赤字を根絶するとともに、政府と別に日本銀行を創立して、正貨を兌換する銀行券を発行させ、不換の政府紙幣を漸次回収する一方、国際収支の均衡を回復するという荒療治を断行するよりなしと決意し、太政大臣三条実美の同意を得るとともに、明治天皇に直奏してご裁可を賜った。

 しかし私が感心するのは、それとは別に、大蔵卿就任と同時に、大蔵省の役人に次のような訓示を行っている事実である。

 『不肖 大蔵卿の任を拝す。・・・(以下、古文調ですのでカット)』

 現代語に翻訳してみると次のようになる。

 私は今般大蔵大臣に任命された。自ら信ずるところに従って、財政の構造改革・不換紙幣回収という計画を実行するつもりである。しかし、大事業を行うにあたっては、以外につまらない過ちのために、中途で失敗に終わることがしばしばある。だから、一般の人々から疑いの目で見られるような行為は絶対にやってはならない。自分も諸君も厳しい態度で公正を守るよう努力することが大切で、役人が投機的な事業に関係し、それによって利益を得ようとしている、などといううわさを立てられるだけでもみっともないという気持ちで、仕事をしてほしい。・・・(平成10年2月12日)】

 前日銀総裁はこの文を読まれたであろうか?、居酒屋タクシー愛用のエリート官僚に是非読ませたい文章です。