磯崎新の「都庁

本屋を覗いたら、平松剛さんの新著が出ていた。文芸春秋社刊『磯崎新の「都庁」』(¥2190+税)です。平松さんは『光の教会 安藤忠雄の現場』(01年大宅ノンフィクション賞受賞)を読んだことがある。本職は建築家ですが、建築家を題材にしたルポルタージュをものしている。

 今回は、磯崎新を取り上げたようだ。面白そうだから購入してきました。東京都庁は’85年11月、9社を指定して、設計コンペが実施されました。

皆さんご承知のように、現在新宿には、丹下健三設計の都庁が建っていますから、磯崎さんの設計は選に入らなかった。磯崎さんのプランが入選していたら、新宿都庁はどんなかたちになっていたか?イメージが浮かんでくる本でした。

鈴木俊一都知事は、後に回想録の中でこう語っている。

「私は、いまの新都庁舎というのは、外形はパリのノーtpルダムのような非常に宗教的なことを考えたというか、そういうのに良く似ているようにいわれますが、とにかく外部のデザインといいますか、景観がなかなかいいと、内部の使いやすさより外部の方が強いように思います」

そして、このあと、天井の高すぎる庁議室の音響効果のまずさに「話をしていると、私は少し高齢で、普通の話(声)では聞こえないんですね」と長々と不満を漏らし、さらに、「旧庁舎も丹下さんの設計なんですね。あれはまた天井が低いんですよ」と丸の内第一庁舎の悪口まで披露していることから察するに、どうやら、いざ新庁舎が出来上がってみると、外観に対する満足より、使い勝手に対する不満の方が、いささか勝っている按配である。】

名建築、必ずしも使い勝手の良い建築でないようです。

建築家は、こうした設計を、いかにしてクライアントに了承させるか?こんなくだりがありました。

【磯崎の存在を意識するようになったのは、1970年代半ば、大学院(京大)に進んでからである。研究室の先生、上田篤助教授がある日、雑談中に渡辺に問いかけた。

「渡辺くんは、今の建築家で誰が一番面白いですか?」

篠原一男と、それから×××、△△△・・・」

渡辺が数人の名前を挙げると、上田助教授も自分の意見を述べた。

「僕は磯崎新くんが面白い」

「え・・・何が面白いんですか?」

助教授は答える。

「僕には磯崎君のデザインがわからない。なぜ、ああいう形をクラインアントに承認させられるのか、わからない。あまりにもこれまでの建築と違う形を提案しているのに、クライアントがみんな唯々諾々と磯崎くんに従っているように見える。それがよくわからない。・・・」】

このエピソードから分かるように、建築家がどんなものの考え方をして、どのように仕事をするか、有名な建築家の生態を詳述している。

東京の建築物の話題が豊富ですから、東京育ちの方、現在東京に住まれている方には、面白い読み物です。