容疑者Xの献身

『容疑者Xの献身』(東野圭吾著、文春文庫)を読みました。

著者の東野圭吾氏の名前は20年以上前から知っていましたが、作品を読んだのは今回が初めてです。二十数年前、当時、中部IE協会なる組織に顔を出していまして、IEの大先達デンソーのOさんの知遇を得ました。その折、Oさんが言われました。

「ウチの会社の若い技術者が、小説書きに熱中して“江戸川乱歩賞”を受賞したが、ついに、そちらの方が良いと会社を辞めてしまった」。東野氏の名を知った最初でした。

 先日、書店をのぞいていたら、この文庫本が新刊の棚にあり、「読んでみようか」と、買いました。2006年の直木賞を受賞した作品でした。

 湯川なる物理学者が探偵役を務める著者のシリーズ(ガリレオシリーズというそうです)の一編ですが、今回は、湯川の大学時代の同級生(数学者)が、犯人側に回って事件の隠蔽に知恵を傾ける、いわば、物理学者vs数学者の知恵比べです。

 推理小説の醍醐味は、言うまでもなくトリックにありますが、この小説のトリックは秀逸だ。読み終わって、そう思いました。

 ただ、奇想天外のトリックを成り立たせるため、推理小説は、どうしてもどこかで無理、破綻を生じます。この小説における無理は、「そんな犯行を犯す人がいるだろうか?」

 著者は、そこには“盲目の恋“があったと説明して、”破綻“を覆い隠しています。

 これ以上は、書くと、推理小説のネタをばらす無粋の行為になりますので、書きませんが、確かに直木賞受賞作にふさわしい力作でした。

 因みに、この小説、映画化され10月4日公開とのことです。