『司馬遼太郎全講演(5)』(朝日文庫)を読みました。
『坂の上の雲秘話』と題する、94年2月4日海上自衛隊幹部を前にする講演が載っていました。
【私は陸軍の大本営参謀だった人に言ったことがあります。
「陸軍に入りますと、『作戦要務令』を持たされます。そこには兵力の分散はいちばんいけないと書いてますが、要するに太平洋戦争で陸軍のやっていたことは、兵力を分散して、敵がやってくるのを待ってただけですね」
その元参謀は「ひどい、ひどい」と笑っていましったが、笑いごとではありません。】
「ノモンハン事件に見た日本陸軍の落日」と題する陸上自衛隊幹部を前にする講演(94年12月6日)では、
【昭和以降の旧軍は参考にならない。
われわれ日本民族がまじめだったのは明治38年の日露戦争まででした。
明治という時代は、政治家も官吏も、軍人も教員も、情報を獲得することに、生かすことに実に敏感でした。
情報と言う感覚を失うとき、国が滅びるのです。】
更に、農業国と狩猟国の「情報」の扱いについて述べ、
【日本というのは住みやすい国なのです。たとえば単位面積あたりのヨーロッパの小麦の生産高と日本のコメの生産高を比べてみればわかります。比較にならないほど、お米のほうが収穫できます。鎌倉時代の人口は八百万から一千万人といわれていますが、八百万としても大変な数でした。同時代のヨーロッパの主要部分もおそらく八百万ぐらいです。これはすべてお米のおかげです。】と記しています。
文明評論家としての、司馬さんの面目躍如たる講話だと思いました。