嘘つき大統領のデタラメ経済

 米国の大統領選挙も終わりました。
『嘘つき大統領のデタラメ経済』(ポール・クルーグマン著、早川書房、04年1月刊)という本を県立図書館の棚で見つけ、面白そうだな、と借りてきました。筆者は、今年の経済学のノーベル賞受賞者。書名から見て、ブッシュ大統領をこき下ろした本だろうと思っていたのですが、筆者が、ニューヨーク・タイムスに毎週2回連載したコラムをまとめた本で、ブッシュ大統領だけでなく、小泉首相竹中大臣も俎上に載せています。
 以下は、小泉さんと竹中さんについて、「闇の中に飛び込んだ日本経済」と題する2001年7月8日のコラムです。書かれたのが01年7月(小泉内閣発足後73日)であることを思うと、この時期に小泉政権の本質をついているのはすごい。さすが、ノーベル賞受賞者だと思いました。

【「構造改革」というキャッチ・フレーズが本当は何を意味するのか聞いてみると、疑問が湧いてくる。いままでのところ、その言葉には二つの意味があるらしい。一つは、銀行に強引に不良債権の処理をさせることであり、もう一つは、雇用を確保するために毎年行われてきた、巨額の公共投資を縮小することである。この二つの政策は、まったく理にかなったものである。遅かれ早かれ、日本の銀行は、財務内容を正直に報告しなければならなくなるだろう。日本の公共事業プロジェクトも、非効率というだけでなく、巨大な腐敗の温床になっている。
 とはいえ、ここにこそ問題が存在する。日本経済が現在直面している明確な危機とは、非効率性ではなく、十分な需要がないことなのである。すなわち当面の問題は、資源を効率的に使っていないことではなく、持っている資源を十分に活用できないところにある。小泉改革には、そうした問題をさらに悪化させる可能性がある。銀行が債務不履行に陥った企業を倒産させる時、また不要なダムや道路の建設を政府が中止する時、直接的な結果として失業が増える。景気のいい時なら、企業の倒産や、公共事業の中止で解雇された人々は、すぐに他で職を見つけることができた。しかし、不況が長引いている経済化では、失業した労働者は職を見つけられないにである。そして失業者は商品を買わなくなるので、経済はさらに悪化するのである。
 では、どうすれば景気回復の展望は開けるのだろうか。この質問を、小泉政権の経済政策の策定者である竹中大臣にぶつけてみた。・・・大臣の名誉のために言っておくと、彼は問題を曖昧にしたり、ごまかしたりはしなかった。彼は、自分の政策が「供給サイド」であることを認めていた。すなわち、直面しているのは国民が十分に消費していないという「需要サイド」の問題であるというのに、竹中大臣は日本経済の効率化を図ろうとしているのである。それにもかかわらず、彼は改革は結果的に需要サイドをも改善すると主張していた。消費者は経済の長期的な見通しが良くなったと気がつけば、財布の紐を緩めるだろう、と彼は力説した。また、さらなる改革、つまり主に規制緩和と民営化を進めることによって、新しいビジネス機会が生まれ、それが設備投資を促進させるだろうとも主張した。
 そうかもしれない。しかし、その政策は、暗闇の中へ飛び込むほどに無謀に思える。すなわち、効果があるだろうという期待から取られた政策であって、効果があると信ずるに足る根拠があって取られた政策でないのである。もし金融政策をコントロールしている日本銀行が同じように大胆に動いて支援したら、この政策が奏功するチャンスは大きいかもしれない。しかし、日銀の態度は小泉首相の姿勢と逆のように見える。彼らは、効果があるかもしれない政策を、効果がないかもしれないと恐れるあまり、実行する気がないようだからである。
 ・・・・小泉政権の暗黙のスローガンは「改革か、さもなければ破滅か」だが、実際の結果が「改革と破滅」となる危険性は高い。】