男と女のお話

【アリマキはメスの仕様から、一段階、あえて減らすことを行った。2本あるX染色体をひとつ捨てることにしたのだ。XX型がX型になる(X0型と表記)。X0型になれば、文字通り情報量は半減する。情報量が半減すれば、そこで作られるたんぱく質量も・・・半減する。そして、その結果、できそこないのメスとしてオスが産み出されることになった。

【アリマキのオスはどことなく哀しく見える。たっぷりと蜜を吸って、動きも緩慢、豊富な身体のメスに比べると極めて対照的だ。オスは干からびたような、がりがりにやせた身体をしており、手足も華奢だ。それをばたつかせながら落ち着き無くあちこちを走り回る。彼らにはするべきことがあるのだ。オスのアリマキの役割はただひとつ。秋が終わるまでに、できるだけ多くのメスと交尾すること。彼らは一瞬の休みも無くメスの間を渡り歩いて、命が尽きるまでその勤めを果たさねばならない。】

 不思議なことに、オスの精子(常染色体n+Xと常染色体n+0がある)のうち常染色体n+0はすぐ死んでしまう。だから、メスに届けられる精子は、常染色体n+Xになる。子どもは2n+XX、つまりメスになるそうです。

 オスの働きは、メスの染色体と他のメスの染色体をシャッフル(混合)することで、多様な染色体を作り出し、環境変動があっても、その中のどれかが生きのべられるようにすること。その作業を冬が来る前に終わるというのです。

【一冬の間に起こる大規模な気候変動の結果、大半の受精卵が死滅してしまうことがあるだろう。あるいは、季節の良いときであっても、ローカルな環境変化が急激に襲ってくることもあるだろう。その際、前の年にシャッフルを受けた遺伝情報の組み合わせからほんのわずかながら、その試練をかいくぐって生き延びるものがあればよい。】

【母が自分と同じ遺伝子を持った娘を産むこの仕組み、すなわち単為生殖は、効率がよい。・・しかし、この単為生殖のシステムにはひとつだけ問題点があった。自分の子どもが自分と同じ遺伝子を受け継いで増えていくのはよい。しかし、新しいタイプの子ども、つまり自分の美しさと他のメスの美しさをあわせもつような、いっそう美しくて聡明なメスをつくれないという点である。環境の大きな変化が予想されるようなとき、新しい形質を生み出すことができない仕組みは全滅の危機にさらされることになる。】

 さて、ここからが本論です。

【本来、すべての生物はまずメスとして発生する。なにごともなければメスは生物としての基本仕様をまっすぐに進み立派なメスになる。そのプロセスの中にあって、貧乏くじを引いてカスタマイズを受けた不幸なものが、基本仕様を逸れて困難な隘路へと導かれる。それがオスなのだ。】

【ママの遺伝子を、誰か他の娘のところへ運ぶ「使い走り」。現在、すべての男が行なっていることはこういうことなのである。アリマキのオスであっても、ヒトのオスであっても。

人は男に生まれるのではない。男になるのだ。

アダムがその肋骨からイブを作り出したというのは全くの作り話であって、イブたちが後になってアダムをつくりだしたのだ。自分たちのために。】

こういう話が満載の本ですが、男の哀愁を感ずる読み物です。

福岡伸一さんの本は面白い。以前にも紹介したことがありますので、もしご興味あれば以下、ご覧ください。

http://d.hatena.ne.jp/snozue/20080122

http://d.hatena.ne.jp/snozue/20070822