反貧困

「反貧困」(湯浅誠著、岩波新書、08年4月刊)という本を読みました。

先日、NHKの特集番組で、著者の湯浅さん(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)と、大学の先生、それに経団連の役員の3人の討論が放映されていたが、湯浅さんの言っていることが、最も説得力がありました。この人は何者ならんと、図書館の著者名検索で見つけたのが本書。今年度大仏次郎論壇賞受賞。著者は、69年生まれ、東京大学大学院法学政治学博士課程単位取得退学という。

 以下、同書読後の感想です。

 社会には、セーフテイ・ネットなるものがある。セーフテイ・ネットは三層構造を持っている。雇用のネット、社会保険のネット、そして公的扶助のネットです。

 従来、日本のこれらのセーフテイ・ネットは、企業を前提にして、つまり、終身雇用を前提として構成されてきたと、私は思います。

 ところが、近年、経団連の要請に答えて政府が行ってきた雇用の自由化によって、この終身雇用制に、乗らない従業員が急増してきた。いわゆる派遣社員など非正規雇用が全労働者の三分の一になった。その結果、非正規社員には、セーフテイ・ネットに大きな穴が開いてしまった。

 まず、雇用のネット、正社員の場合は企業別組合が雇用を保証してくれる。しかし、派遣の場合、雇用の継続に保証はない。このことは、次の社会保険のネットにも関係してくる。

たとえば、正社員に認められている有給休暇が、派遣社員に機能しない。A社に派遣された期間が終了し、次にB社に派遣されるまでの期間を有給休暇でしのぐことができないのだ。のみならず、このハザマの期間、雇用保険も健康保険も切られてしまう。そしてB社の契約を切られるとき、雇用保険の失業保険の対象にならなくなる。雇用保険の加入年数がB社の分しかカウントされないためである。まだ派遣会社が健康保険や雇用保険を払っていれば良いが、払っていない場合もある。

 製造業に派遣を認める場合は、健康保険や雇用保険を払っていない派遣会社からの派遣を受け入れることを禁止すべきだった。また、雇用保険の法律を改定して、先の例の場合、A社、B社通算して保険加入期間とできるようにすべきだった。

もう一つ言えば、派遣会社は派遣社員に払う給料から経費を天引きするのだが、天引き率に上限の定めがない。特に日雇い派遣は、現代の飯場システムになっている。

 そうした配慮をまったく欠いて、経団連と政府は、雇用の(経営者に都合のよい)自由化を推進したのだった。(派遣を拡大するなら、企業の終身雇用を前提としないセーフテイ・ネットを設計すべきだった)

 更に、政府の構造改革路線により、社会保障費の毎年2200億円抑制の方針は、公的補助の申請を極力受け付けなくする地方自治体を増加させた。北九州市における 52歳男性の餓死事件はその一例である。

 三層のセーフテイ・ネットが機能しなくなった結果、近年、4番目のセーフテイ・ネットが出現した。刑務所である。

 刑務所出所後、150円の賽銭泥棒を働いて、食うために、刑務所再入所を果たした事例が紹介されている。刑務所は各地満杯だそうだ。

 こうした記述を呼んでくると、憲法25条を政府は守る意志があるのか疑問になってくる。一体、政府とはいかなる存在であろうか。因みに、OECDの指摘によると、日本は、税と社会保障移転による相対的貧困率削減効果が極めて小さい(主要国中最低)。世界第二の経済大国が、なぜこうならなくてはならないか?