グローバル恐慌

「グローバル恐慌」(浜矩子著、岩波新書)を読みました。

浜矩子さんは、時折中日新聞に寄稿をしているのですが、その論旨が的を得ているので、日頃、注目しているエコノミストです。今月の岩波新書に、彼女の著が出ていると聞き、すぐ買ってきました。とても面白い内容でしたので、少し長くなりますが紹介します。

経済危機でなく経済恐慌

 【本書のタイトルは、「グローバル恐慌」である。08年秋に幕が開いた金融と経済の大波乱を何と命名するか。さしあたり、「世界金融危機」という言い方が定着しつつある。・・・「危機」に違和感を持つ理由は二つある。第一に、危機の意味を辞書でひけば、『大変なことになるかも知れないあやうい時や場合。危険な状態』とある。今は「大変なことになるかもしれない」時だろうか。そうではなくて、もう既に大変なことが起きてしまっている・・・

 さらに、「危険な状態」の「危険」についても辞書を引いてみると、「危ないこと。危害または損失の生ずるおそれがあること」・・・・今、経済的危害と損失は「生ずるおそれがある」段階なのか。

 損失は地球経済の津々浦々で既に発生している。「生ずるおそれがある」段階はもう通り越している。

 第二に、「危機という言葉には、・・・外からやってくる危険、そんな感じがする。

 今、我々が直面している混迷は、外からやってきた危険だといえるか。

株価暴落のおかげで、自分は何もしていないのに大損を蒙った人々にとっては、今回の顛末はまさに外生的ショックだろう。だが、そのような株価暴落の原因をつくりだした金融機関や企業たちの経営失調は、・・基本的には身から出た錆だったケースが大半である。

 アイスランドという北極圏の小国は、ひたすら金融立国路線を邁進した結果、IMFからの資金援助を必要とする状態に追い込まれている。それこそ、国家倒産の「危機」が眼前にちらつく日々を迎えているのである。アイスランドの大手金融機関は、かつては地場中小企業への融資を本務とする健全経営に徹していた。その彼らが1990年代半ばからはグローバル金融の舞台に上がり、リスクとチャンスをお手玉するビジネス・モデルに経営の舵を切り替えた。その結果が今の状態である。彼らとて、これを人のせいにするわけにはいくまい。

 この有様を「危機」の言い方で片付けるのは、どうも生易しすぎる。

 思い浮かんだ言葉が、「恐慌」だった。・・・「恐れて慌てること」】

【さて、ここからが注意を要するところだ。金本位制の下では恐慌が起こる(1929年)。管理通貨制の下では恐慌は起こらず、その代わりに経済にインフレ・バイアスがかかる。そう考えられてきた。ところが、現状はどうか。管理通貨制度の下で、古典的な恐慌現象が起きている。このことを我々はどう理解すればいいのだろうか。】

【管理通貨制度の下で、恐慌は起こらないという戦後の通念を破った。しかも、むしろ機軸通貨国の管理通貨制度への移行が恐慌への第一歩を形成したと考えられる。】と筆者は述べているが・・・

モノとカネの関係

今回の恐慌は【モノとカネとが決別状態にある中で起こったという点で、従来の資本主義論的な恐慌の理解をどうも逸脱している。しかも、むしろモノと決別したカネの暴走に問題の焦点がある】らしい。以下、これについて考える。

【「メイン・ストリートの繁栄なくして、ウオールストリートの繁栄なし。」

バラク・オバマ氏がそういった。大統領選の結果を受けて、勝利宣言演説を行った08年11月4日の言葉である。

 ウオールストリートは、いうまでもなくニューヨークの金融街である。それに対して、メイン・ストリートは産業の代名詞として使われる言い方だ。産業の低迷を尻目に、金融だけが繁栄を謳歌することはあり得ない。・・それがオバマ氏の認識だ。

 この認識は全く正しい。モノづくりとカネ回しは、・・・息の合った夫婦でなければいけない。

 ところが、金融の自由化・工学化・IT化・グローバル化が進む中で、この夫婦は離婚状態に陥った(しかし離婚した相手から影響を受けないということではない)。】

【まず、確認しておくべきことは、カネがモノを置去りにして暴走しだしたからといって、モノの世界がカネなしで回るようになったわけではないということである。むしろ、ここに問題の深刻さがあるといっていいだろう。信用創造なくして、経済活動は正常に動かない。世に無借金経営というものはある。だが、たとえある企業が無借金経営を行っていても、その顧客や仕入先が借金依存型の経営をしていれば、やはり信用連鎖のネットワークの中に組み込まれている。みずからは借金に依存していなくても、経済全体としては信用創造が正常に機能してくれていなくては、やはり経営が行き詰まってしまうのである。】

【今回、急速な不況化の中で世界的に劇的な打撃を受けているのが、自動車産業だ。それはなぜかといえば、自動車というものの売れ行きが、金融に極めて大きく依存しているかららである。自動車ローンあってこその自動車産業だというのが、今日的な実態だ。信用収縮の中で、自動車ローンについても、融資基準の厳格化など貸し渋り傾向が強まることになれば、そのことが自動車販売台数を直撃する。】(つづく)