グローバル恐慌(2)

円はかくれ機軸通貨?

そもそも、サブプライム・ローン証券化問題は、なぜここまで見てきたような広がりを示すに至ったのか。いくら巧みに証券化手法を駆使しても、買い手がいなければ商品は売れない。本質的な不透明さとリスクが付きまとう債権担保証券に、多くの投資家が手を出したのはなぜか。それは、要するに世界中がカネ余りに陥っていたからである。2,000年代に入って以来、今回の金融破綻に見舞われるまで、地球経済は基本的に低金利・カネ余り状態で推移してきた。

各種の要因があいまって世界的カネ余りを生んだというのが、少なくとも現象的には妥当な解釈だと考えられる。ただ、諸要因を影響力の大きさに従って順位づけするとすれば、実は「日本要因」の順位が高いのではないかと考えられる。長期にわたる日本のゼロ金利政策量的緩和措置。そしてそれらの政策が解除された後も続いてきた超低金利状態。これらが、世界的にも超低金利とカネ余りを長期化させて来た大きな要因ではないかと思うのである。

日本は世界で最大の債権国だ。純貯蓄の規模が世界で一番大きい。そのような国の金利が6年も7年もにわたって実質ゼロの水準に張り付いていれば、世界的にも超低金利になるのは当たり前だ。日本国内で金利を稼げないジャパンマネーが、世界中に出稼ぎに行く。そのための架け橋の役割を果たしたのが、いわゆる円キャリトレードである。ただ同然の金利負担で日本で資金を調達し、外貨に換えて運用する。その流れに乗ってあふれ出るジャパンマネーが、世界的な過剰流動性景気を地球経済にもたらした。

世界的に過剰流動性が充満する中で大きな問題が一つ発生した。超ローリターンが浸透する世界で、投資家たちは、それでも何とかハイリターンを獲得しなければならなかった。その中で、彼らは次第にハイリスクに対する感受性を失っていったのである。・・・通常なら敬遠されるリスク資産へと人々を誘う。その一つの大きな焦点になったのが、サブプライム・ローン証券化商品にほかならなかった。】

【円という通貨に着目しておきたい。日本発の資金と日本の金利水準、そして日本の金融政策が世界の金融市場を振り回して来たという点は、示唆に富んでいる。ジャパンマネーが地球を回り、ジャパンマネーが地球を回す。その意味で、今日の日本は、一種、機軸通貨国的な機能をになうといえなくもない。ただし、従来型の機軸通貨国のイメージとはかなり違う。国際機軸通貨というものは、もはや存在しない。それがグローバル時代というものだ。今日の円はいわば隠れ機軸通貨である。】

(米国は貿易収支が赤字でも輸入し続けるため機軸通貨の米ドルを増発し続け、日本は企業が輸出し続けるため円を増発し続けてきた。円は隠れ機軸通貨だった


 浜さんの推論、見事なものだと思いませんか!彼女の推論に小生の持論を加えて、以下は現下の大不況の原因の仮説です。

1. 恐慌はかつての1929年の大恐慌に見られるように、金本位制の下で発生した。恐慌を避ける手法として管理通貨制度を国々は採用した。しかし、管理通貨制度は、恐慌は起さないものの、インフレを生ずる傾向があった。

2. 管理通貨とは、国を単位とする管理である。インフレ傾向になれば金利を上げかつ通貨量をしぼる。デフレ傾向になれば金利を下げ通貨量を増やす政策を採用する。

3. ところが経済のグローバル化は、この通貨の管理に変調をきたした。政府が金利を上げても、民間は外国から安い金利で資金を調達できる。逆に金利を下げても、国内でなく、外国がその安い金利の資金を借りて、外国で運用する。

4. 従来は、金利を下げ通貨量を増やせば、インフレがひどくなるので、通貨量の増大にブレーキがかかった。ところが、物価が上がろうとすると、外国から安い価格でモノが入ってくるから、必ずしもインフレにならない。政府の通貨量増大策にブレーキがなくなった。

5. 貿易で黒字を続けると、為替相場が上がるので、輸出がしにくくなる。ところが、政府の通貨量増大にブレーキがないので、通貨量を増やして外貨(米ドル)を買い続ければ為替相場は上がらない。そうして輸出し続ける国が出た。日本である。中国にもその傾向がある?

6. こうした結果、世界全体の通貨量が増えた。増えた通貨はどこへ行ったか?通貨を所有した人々は金利を求めるから、ハイリターンに対する需要が増える。そのニーズにこたえようとする金融派生商品が次々と出てきた。

7. サブプライム・ローン証券化商品はその究極であった。かくて地球上すべてにサブプライム・ローン証券化商品が行きわたったところで、それが破綻した。

金融機関同士で、相手が「サブプライム」で破綻するのでは?疑心暗鬼になる。短期資金の市場にカネを出す金融機関がなくなる。以下は、1929年の大恐慌と同じ現象を起した。

8. 要するに、通貨を一国で管理することが困難になって、管理通貨のつもりでいた通貨が、管理できなくなっていたのです。

9. そもそも、こうした経済のグローバル化を推進したのは、米国でした。工業生産における競争力が落ちてきて、貿易で稼ぐことが困難になってきた米国が、覇権国であり続けるためには、そのための資金を稼ぎ続けなければならない。貿易で稼げないなら、金融で稼ごうと考えた。金融で稼ぐためには、金融のグローバル化、即ち経済のグローバル化が必要であった。

以上です。長くなってすみません。