寿命論(2)

 タンパク質に翻訳されない非コード領域は、遺伝子の発現を抑制しているらしいことが分かってきました。

【非コード領域でつくられる小分子RNAの主要な機能が「抑制作用」であることから、過剰と見えたゲノムの役割は、生命システムを相対として「抑制系」にするための必要装置だったのではないか・・。】

 つまり、DNAの大部分は、遺伝子を発現させないよう抑制する機能を持ち、生命系を「抑制系」にするために働く。そのことが意味することは何か?体が大きくなると、遺伝子を発現させない抑制系が発達する。体が大きくなるほど省エネルギーが求められるのでしょうか。次にこれを考えます。

4. 生物の基本戦略は、栄養をどう配分するかだ。

実際、栄養状態によって、無性生殖をしたり、有性生殖をしたりする生物がある。

【ゾウリムシは、性成熟に達したのちに飢餓環境に置かれると子どもづくりの準備に入る。つまり無性生殖過程から有性生殖への切り替えが起こる。その際、ジャーム機能に専念するためにソーマは犠牲にされる。すなわち生殖核が減数分裂に入ると、ソーマの大核は自己崩壊への歩みを決定づけられるのである。しかし同じ飢餓環境でも、まだ性成熟に達していない時期であったり、あるいは子どもを作ろうとしてもその子どもが生存しづらいような過酷な飢餓環境が続くようなら・・・ソーマへのエネルギー配分を高めて飢餓に耐えられる強靭な体を維持しつつ好適環境の到来を待つ。】

 種の寿命には、進化的にプログラムされた(遺伝的に固定された)寿命と、生物が不可避的に蒙る突然変異や酸化的劣化といったさまざまなエラーの蓄積が老化をもたらし結果として寿命を迎えるという寿命がある。前者をプログラム寿命、後者をエラー寿命と呼ぶ。

プログラム寿命は人為的環境下に有るときの「寿命」(最大寿命)とみなせるし、エラー寿命は、自然環境の中にある「寿命」(平均寿命)とみなせる。

【寿命を延長するのに有効な遺伝子の上流に抑制遺伝子がかぶさっていて、長寿化を抑制している状態が正常な姿であり、抑制遺伝子に突然変異が起こると寿命が延長した。言い方を変えると、ストレスをかけている状態が野生状態で、ストレスの解除、抑制の解除が長寿につながった。このことは、野生環境の中で進化してきた生物にとって、絶えず周囲の状況に対応できるハイテンションな状態、いわばストレスに対処できる状態に身を置くことが最も適応的な姿であったことを思わせる。正常な生命システムにとって、長寿は抑制すべき浪費ということのようである。】

5. 生命の初期化

有性生殖の本来の意味は、遺伝的多様性を生み出すことでなく、新しい自己をつくり、親世代とは異なる一生を歩ませることにあるのではないだろうか。

寿命の起点は、もちろん受精だが、受精とは、生物時計の巻きなおし(PCで言うと、初期化)です。

(ある程度以上エラーが重なったら、もう初期化してリセットした方が簡単(使うエネルギーが少なくて済む)というのは、PCもヒトの寿命も同じらしい。)

ながながと、皆さんには興味のない話題だったかもしれませんね。でも、生命の誕生が、PCの初期化という発想が面白くて、紹介しました。