国際金融論

「国際金融論」(河合正弘著、94年6月東京大学出版会刊)を読みました。以下、同署の興味深い論点について記します。

第3章は、為替レートの決定理論です。
為替レート決定モデルの予測能力に関しては、変動レート制期の全体を通じてレート変動を安定的なかたちで説明しうるモデルが殆ど存在しないことから、標本内での予測能力は高くない。ましてやモデルの標本外での予測能力は極めて低い。この点では、ランダムウオーク・モデルの方が構造モデルよりも優れていることが多い。ただし、構造モデルの標本予測能力が低いのは、必ずしもモデルが誤っているからではなく、モデルが説明することのできないニュースや撹乱、あるいは市場心理の揺れが大きいからだと考えることも出来る。つまり為替レートはその時々のニュースやショック、あるいは期待の変化などの影響を受けて大きく変動し、しかもそれらはランダムに発生することが多いので、為替レートもランダムな変動を示すことになる。

第2章の経常収支と国際資本移動において、
「国際資本移動に関わる経済取引には、財と資産の交換、資産と資産の交換がある。財とは、「現在時点」において消費ないし投資することが可能な資源であり、資産とは「将来時点」における消費・投資可能な資源(あるいは、それへの請求権)である。
財と資産の交換は、家計・企業が貯蓄や投資などの意思決定を行う結果生ずる異時点間の経済取引を指す。このタイプの経済取引において、経常支出が意味を持つ概念になる。すなわち、時間選好率が高い国や投資の収益性の高い国は、経常赤字を作り出し、それを国際資本流入によってファイナンスする傾向を持つのである。
資産と資産の交換は、期待収益率の国際格差、ポートフォリオ・リスクの国際分散、内外の流動性選好の差異などを繁栄して行われる資本取引である。それは、異時点間の諸要因を背後にもちつつも、それ自体、同時点内の経済取引であり、経常収支のインバランスをファイナンスする性格をもつものではない。」と述べている。

筆者は、小国経済(海外諸国から影響を受けるものの、海外諸国に対してはなんら影響を及ぼさない経済)の開放マクロ・モデルを第5章で提示する。
マンデル・フレミングモデルの拡張である。
変動為替レート制度の下で、当局は、最適なマネーサプライ・ルールにコミットすることで、インフレーシヨンと為替減価を回避し、高い経済厚生を達成することができる。
固定為替制度において、当局が減税を行い財政赤字を作り出したとしても、それは消費、国民貯蓄、経常収支になんら影響を与えない(バロウ・リカードの中立命題)が、ただし、財政赤字がいずれインフレ税によってファイナンスされるときには、それに応じて、現時点から為替レートの減価がはじまる。
興味深い章であるが、私が、もう少し解説を望みたいと考えたのは、「経済厚生」とは、具体的にいかなるデータで把握するのか?