トービン税入門

トービン税入門」(ブリュノ・ジュタン著、和仁道朗訳、社会評論者06年3月刊)を読みました。1971年8月、アメリカのニクソン大統領は、ドルの金への交換性停止を発表した(グローバル化の真の出発点である)。第2次大戦後に成立したIMF体制(ドルを基軸とした固定相場制)は崩壊し、国際通貨制は変動相場制へと移行していく。
ジェームス・トービンは、1972年のプリンストン大学での講演で、すべての外国為替取引に低率の課税を行い、短期の投機的取引を抑制するというトービン税のアイデアを提唱した。
しかし、トービンの提案はその後20年ほどの間、ほとんど関心をもたれることがなかった。一つには、新古典派総合、新自由主義の主流派経済学からイデオロギー的に忌避されたからであり、また実務的にもあらゆる通貨取引への一律課税は不可能とみなされたためである。
1982年8月に表面化したメキシコ債務危機は、発展途上国の多くが悩まされる世界的な累積債務問題の発端であった。変動相場制のもとで、先進国の過剰化した資金と途上国の外資依存型の開発戦略とが結びつき、債務が膨れ上がった結果、途上国側の返済が不能となる事態を招いたわけである。その当面の解決のために、IMF、次いで世界銀行が、債務引換えに、「構造調整プログラム」による厳しい引き締め政策を共用していく。結果として、途上国の貧困問題が深刻化し、またIMF世界銀行に対する批判の声が高まっていく。そこから、貧困問題解決、国際機関民主化という今日のトービン税運動の新たな課題が生まれてくる。
(1994年に国連開発計画が、『人間開発報告』のなかで、途上国の貧困問題解決の財源として、トービン税による税制をあてる提案を行った。これが、通貨危機対策とは別の目的のトービン税提案の最初であろう。)


通貨の全般的フロートは、しばしば予測できない、為替相場の大幅な変動となる。為替リスクを防御するため、企業や銀行機関はその投資を多様化する。多様化は国内および海外でのさまざまな金融資産に投資することで、次には新たな金融資産を創出することで行われた。それゆえ、ある資産から別な資産へと移ることができるようにするには、その障害になる規制の障壁をすべて撤廃する必要があった。規制緩和の強力な要因である。
隔壁と規制とは、ある市場における危機が一国内であれ多国間であれ、第二の市場に広がることを避けるために、公権力により築き上げられたものである。


(投機とはいかなるものか?
他人がどう動くかを予測して、他人に先回りして利益を得ようとするゲームと言える。snozue)
レーガン大統領の声明の後に続いてドルの上昇が観測された。その声明では、彼の意見としては、ドルは十分に下落したと、明言している」。実際、トレーダー達にインタヴューした後で、確認したところ、大統領の経済に関する専門的知識を真に受ける者は誰もいない。では、何故買ったか?「大統領がなんと言ったか」を知るや否やドルを買った。そニュースを聞けば他のトレーダーたちがドルを買うことになると考えたのである。


近代資本主義経済は、真の矛盾に直面する。流動性の欠如は、生産的投資への重大な障害を引き起こす。しかし、流動性の存在は、投機を活発化するので、生産的投資を「カジノの活動の副産物」にする。1970年には、為替市場の年間取引総額は、貿易と国際投資の総額の約二倍に相当していた。それ以後、為替市場の爆発的拡大が見られた。為替市場の総額は、1998年には、貿易と国際投資の総額の約50倍になった。
明らかに、過剰流動性を物語り、現実経済との関連の切断を物語る、為替市場の肥大が存在する。そのことはどのように説明したらよいだろうか?為替市場は自由化されればされるほど、効率的ではなくなっている。貿易および国際投資の取引を実現するには、ますます多くの為替取引が必要になっている。こうした取引の膨張の根源には、為替リスクに対する防御の必要性と、そこから利益を引き出そうとする投機の意志とが見出される。
(各国政府、特に基軸通貨国政府が通貨膨張策をとるときの過剰流動性の増加が、こうした傾向に拍車をかけるだろう-―nozue)

この本の最終章で、筆者は興味深い指摘をしている。
通貨取引税は、「単一世界通貨よりも優れた利点を有する」という主張です。世界通貨の実現可能性には疑問がある。単一世界通貨ということになれば、世界的な経済政策を実施する世界的な機関によって管理されなければなるまい。そうした機関の誕生は、現時点では夢物語です。

筆者の言う通貨取引税は、複数の税率を定めて、通常はごく低率の取引税を適用するが、投機が激しいと判断した場合は、効率の税率を適用するというものですが、これにより、単一の世界通貨を必ずしも必要としない。しかも、国家がその国の経済にふさわしい、主権に基づく経済政策を実施する可能性を保持できるというのです。

この本では、通貨取引税の技術的問題についても詳述している。
徴税が支払い地においてなされるべきこと。
税を管理するのはいかなる機関であるべきか。
脱税の可能性と対策。
通貨取引是実現のステップ(世界のすべての国が合意するのを待つ必要はない)。
税収はいかなる目的に使用すべきか。等々。