為替市場の読み方

「為替市場の読み方」(佐中明雄著、講談社現代新書、98.07刊)を読みました。
外国為替の一般向け解説書ですが、「第5章外国為替市場の変動と予測」が大変参考になりました。以下、この章の内容を要約で紹介します。
為替相場決定の古典的学説としては、「国際貸借説」(ゴッセン)、「為替心理説」(アフタリオン)、「購買力平価説」が有名であるが、今なお生き残っているのは「購買力平価説」です。
均衡為替レート=基準為替レ−ト×(日本のインフレ率/米国のインフレ率)
であるが、実際の為替レートと、短期的・中期的には乖離することがしばしばある。ただ、長期的には円ドルレートをみても購買力平価に近づくことは否定できない。
次に、近代為替決定理論と呼ばれるフロー・アプローチとアセット・アプローチがある。フロー・アプローチは、フローとしての外国為替の需給に注目する。「経常取引」はGNPの関数、「資本取引」は両国の金利の関数、「経常取引」+「資本取引」+「公的介入」=0の方程式を解けば相場水準が求められるとする。
しかしこの理論は、経常収支をはるかに上回る資本収支が単に金利の関数だけでなく為替相場の変化予想に敏感すぎるほど敏感で、従来のフローベースでのアプローチでは、為替相場の決定は説明できなくなったとして次第に人気を失っていった。
アセット・アプローチは、株式市場で一定量のストックとしての株が取引され、その取引で株価が常に形成され、変動しているように外国為替市場でも、一定量のストックとしての資産が二国間で交換され、これにより為替相場が形成されるというものである。通貨の需給関係に重点を置く「マネタリー・アプローチ」と金融資産(ポートフォリオ)の構成やリスクに重点を置く「ポートフォリオ・バランス・アプローチ」がある。
「マネタリー・アプローチ」を簡単に説明すると、貨幣の需給均衡式と購買力平価式が成立するように貨幣市場が均衡する場合、為替レートは貨幣供給の関数として決まる。即ち、為替レートは金融政策に直接結びつくことになる。
しかし、この理論は「各通貨建て資産間の代替性が完全である」という非現実的な仮定を前提にしており、資本移動が自由化され、大規模な資本移動やそのヘッジのための為替需給は、実質金利差や異種間通貨債券間の完全代替性では説明できないほどのインパクトを為替レートに与えるようになって、「ポートフォリオ・バランス・アプローチ」が登場した。
即ち、投資家は貨幣を資産選択の一部として内外の各種金融資産を保有するが、外国通貨建て資産は為替レートの変動でキャピタル・ゲインやロスといったリスク・プレミヤムが生ずる。人々はこれらを考慮したうえで金融資産の最適なポートフォリオの組み合わせを造っていくが、為替レートはそのパラメータとして作用し、貨幣・資産市場で需給が均衡するように決定されると主張する。
ポートフォリオ・バランス・アプローチ」はいまのところ為替決定理論の主流となっているが、少なくとも90〜95年の日本のデフレ不況下の大円高を説明できない。
要するに外国為替決定の近代理論といわれるものも、為替理論を説明する包括的理論としては不十分である。
IMFエコノミストエド・ミースの指摘したごとく、過去の為替から将来の為替を説明しようという単純な時系列的なアプローチの方が経済理論に基づいた予測よりもよく当たるという。情報の開示が完全で、市場参加者が合理的であるなら、為替レートはランダムウオークとして決定論は存在しないというのが一番科学的という主張も存在する。
「相場と賭博はどう違うのか」。両者には決定的な違いはある。外国為替相場には需要と供給が背後にあるが、賭博にはそれがない。その意味で、為替市場変動の原点は、需給である。
国際通貨決済銀行(BIS)が95年4月に実施した世界の為替市場の調査によると、世界の為替市場の一日の総取引高は1兆2千億ドルと推定されているが、これに対して世界の貿易総額は一日当たりわずか276億ドルである。これに証券投資や直接投資を加えても為替の取引高にはるかに及ばない。
にもかかわらず、専門家は、国際収支取引を構成する基本的項目が中心にあって、そのまわりに巨額の投機、リスクカバー、リスクヘッジがあることを、良く知っている。