投機の円安 実需の円高

『米国人は貯蓄をしないで放漫な生活をし、その結果、自国で生産するより多くを消費しているから貿易赤字になる。日本人は一所懸命ものを作り、消費を切り詰め、こつこつ貯蓄しているから黒字が出る。米国人はキリギリス、日本人はアリだ。米国人は日本の黒字を非難する前に、もう少し生活を切り詰め貯蓄をした方がいいのではないか。ベンツなんか乗っていないで、自転車にしなさい。

日本人は、米国人がパーテイばかりやって遊んでいる、飲み食いに明け暮れている花見酒の経済というイメージで議論している。しかし、実態はかなり違う。
実際の一般の米国人の生活は、ヨーロッパ人も同じだが、極めて質素であり、堅実である。自動車でもぼろぼろになって走れなくなるまで使っている。家具なども、要らなくなったら捨てるのではなく、ガレージセールを開いて売る。・・・・
一方、日本人はどうか。・・・私は日本に来て、確かにいい給料をもらっているが、とてもではないが日本人の金遣いの荒さにはついていけない。日本人はちょっとしたパーテイでも1万円や2万円軽く使ってしまう。タクシーに乗って3千円使うのならいい方で、遠くに住んでいる人は1万円でも使ってしまう。・・・』

クーさんは、「貯蓄が少ないから貿易赤字が出る」(と経済学者は言う)のではなく「貿易赤字があるから結果的に貯蓄が少なくなる」。と説く。
例えば、米国の消費者が1個1ドルで米国商品を買っていたとしよう。そこへある日突然、日本から同じような性能の新しい製品が入ってきて、1個80セントで売られたとする。米国の消費者は価格対パフォーマンスへの感度が鋭いから、1個1ドルの米国製品より1個80セントの日本製品を買ってしまう。・・・この消費行動は極めて堅実で合理的な行動である。
消費者が輸入品を買い始めたことによって、今まで米国で製品を作っていた人々の収入が激減する。これらの人々は、これまで1個1ドルで製品を売り、収益を上げ雇用を確保してきた。しかしある日突然、日本製品にマーケットを奪われ、製品が売れなくなってしまった。所得は激減し、場合によっては失業に追いやられることになる。失業に追いやられ所得が以前の半分、あるいは3分の1になった人々に、依然と同じ金額の貯蓄をしろといっても、それは無理というものだ。

以上は、80年代から90年代前半までの、日米経済について述べた記述ですが、現在、日本と中国・インドの間に同様な問題が生じてきています。

この章の最後にクーさんはこう述べています。
『戦後の米国主導の自由貿易体制がここまで維持できたのは、二つの国が入っていなかったからかもしれない。その二つとは、中国とインドである。もしもこの二国が最初から入っていたら、今の体制が多くのセーフガードなしにここまで続いたかどうかは、はなはだ疑問である。』