市場機構と経済厚生

「市場機構と経済厚生」(川又邦雄著、創文社現代経済学選書、1991年5月刊)は、こんな本でした。
序説において、筆者はこう述べる。
『「経済学」には「実証的」および「規範的」という二つの視点からの分析が可能である。
実証的経済学の命題は、典型的には「・・・である」という形に表現できる。これに対して規範的経済学の命題は通常「・・・べきである」あるいは「に過ぎる」という形に表現される。
厚生経済学において中心的な関心事となる、さまざまな経済システムにおける資源配分の決定のされ方の良し悪しを評価する命題を導くには、通常つぎのような方法がとられている。まず資源配分の状態の優劣を判断する基礎となる理念(以下価値基準あるいは価値前提)を採択し、それぞれについての合意を約束する。続いて消費者や生産者の行動ルールおよび市場の構造について、実証経済学の場合と同様のいくつかの仮説をおき、その下で定まる資源配分の状態を明らかにし、さきの価値基準にしたがって優劣を判定する。ただしこの結論を直接検証することはできず、分析に用いた仮説を検証するにとどまらざるをえない。』
ピグーの第一命題は、「貧者に帰する分配分が減少しないとすれば、国民分配分の大きさの増加は、それが他のいかなる出来事とも関係無しに起こる限り、経済的厚生の増加を意味する」。
この命題の下に、「経済的厚生をマーシャルの意味での消費者余剰」を分析する。
蛇足かも知れぬが注釈すれば、「消費者余剰とは、消費者の最大留保価格から取引価格を引いたもので、取引から消費者が得る便益を指す。
一般的には、消費者がある財やサービスを購入するとき、最大限支払っても良いと考える額と実際に支払った額との差分のことだと考えればよい」。
尚、 生産者余剰(せいさんしゃよじょう)とは、「取引価格と生産者の限界費用との差額の和で、取引から得られる企業の便益を指す。
収入から変動費用を引いたものに一致するので、固定費用を無視した場合の利潤に等しい。
式で表すと、生産者余剰=(収入−変動費用)=(利潤+固定費用) となる。」
ピグーに代表される「旧厚生経済学」に対して、「新厚生経済学」とよばれる学派がある。彼らの重要なステップは、資源配分上の無駄がないことを定義するために新しくパレート最適の概念を用いる。

外部性や公共財が存在しない場合、ある集団が、1つの社会状態(資源配分)を選択するとき、集団内の誰かの効用(満足度)を犠牲にしなければ他の誰かの効用を高めることができない状態を、「パレート効率的(Pareto efficient)」であると表現する。また誰の効用も悪化させることなく、少なくとも一人の効用を高めることができるとき、新しい社会状態は前の社会状態をパレート改善するという。言い換えれば、パレート効率的な社会状態とは、どのような社会状態によってもパレート改善ができない社会状態である。
厚生経済学の第一基本定理は、消費者の選好が局所非飽和性を満たせば、競争均衡によって達成される配分はパレート効率的である、というものである。局所非飽和性とは、どんなにわずかにでも消費量の増減が許されるならば、より好ましい消費量を実現できるという仮定である。
また厚生経済学の第二基本定理とは、局所非飽和性に消費者の選好や生産者の技術の「凸性」などのしかるべき条件を追加すれば、「任意のパレート効率的配分は、(一括固定税・一括補助金などで)適当な所得分配を行うことによって競争均衡配分として実現可能である」というものである
 こんな具合に、厚生経済学と市場機構について語っています。しかし、この種の本で、経済学者の述べる数式は、分かりにくいものですね。何故かな?