ルポ貧困大国アメリカ

『ルポ貧困大国アメリカ』(堤未果著、08年1月刊、岩波新書)を読みました。
2年前に評判になった本ですが、機会を逸して読んでいなかったのです。期末試験が終わった日、大学の図書館で見つけて借りてきました。
 著者は東京生まれ、ニューヨーク州立大学卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士。米国野村証券に勤務中9.11同時多発テロに遭遇し、以後ジャーナリストとして活躍している。
 一読して、印象に残った点は二つ。米国の健康保険の民営化のおそろしさと、イラク戦争にはじまった戦争の民営化のおそろしさでした。市場に任せて良いことと悪いことがあると、米国社会のルポルタージュで語っています。(先進国の中で、米国と日本が相対的貧困率で一、二を占めるのも、行過ぎた市場主義によるものだろう。)
 まず米国の医療の実態について。
 【80年代以降、新自由主義の流れが主流になるにつれて、アメリカの公的医療も徐々に縮小されていった。公的医療がふくらむほど、大企業の負担する保険料が増えるからだ。そのため政府は「自己責任」という言葉の下に国民の自己負担率を拡大させ、「自由診療」という保険外診療を増やしていった。
 2005年の統計では、(米国の)全破産件数208万件のうち企業破産はわずか4万件に過ぎず、残り204万件は個人破産、その原因の半数以上があまりにも高額の医療費の負担だった。たとえば
 盲腸手術入院の都市別総費用ランキング
1.ニューヨーク   243万円  1日(平均入院日数)
2.ロサンゼルス   194万円  1日
3.サンフランシスコ 193万円 1日
4.ボストン     169万円 1日
5.香港       152万円 4日
6.ロンドン     114万円 5日
 アメリカの国民1人当たりの平均医療費負担額は、国民皆保険制度のある他の先進国と比較して約2.5倍高く、2003年度のデータでは一人当たり年間5635ドルになる。
 民間の医療保険に加入してもカバーされる範囲はかなり限定的で、いったん医者にかかると借金漬けになる例が非常に多い。
 2005年にハーバード大学で行われた調査結果によると、病気になり医療費が払いきれずに自己破産した人のほとんどが中流階級医療保険加入者だという。】

 米国の軍隊は徴兵制ではない。だから、兵隊に応募させるための、あの手この手があるが、その標的は貧困の若者だ。
 いわく?大学の学費を国防総省が負担する。?入隊中に職業訓練が受けられる。?入隊すれば兵士用の医療保険に入れる。等々でワーキングプアの若者を勧誘する。
 しかし、実態は甘いものではない事例が、これでもかというほど紹介される。
 【1990年代の「外注革命」をモデルにして、アメリカ政府は国の付属機関を次々に民営化していった。アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンは「国の仕事は軍と警察以外すべて市場に任せるべきだ」という考えを提唱したが、フリードマンに学んだラムズフェルド元国防長官はさらに、戦争そのものを民営化できないか?と考えた。この「民営化された戦争」の代表的ケースが「イラク戦争」であり、アメリカ国内にいる貧困層の若者たち以外にも、ここに巧妙なやり方で引きずりこまれていった人々がいる。】
 軍隊が、外注会社から派遣社員を雇って海外(イラク)作戦に使うというやり方です。正規軍を補充する「契約要員」です。驚くべきことに、この契約要員に日本人がいたというのです。
 これらの契約要員も、応募した正規の米兵も、ワ−キング・プアの出です。つまり、米国にとっては貧困層の存在は、軍隊の維持に不可欠であって、経済格差は必要悪らしい。